「ぼくたちが本と出会うときのこと」第一回:中身を隠してみたらたくさん売れた
 探しものは、見つけやすくなった。鞄の中も机の中も、と口遊みながら紀伊國屋も神保町も探したけれど見つからなかった本が、夢の中へ行ってみたいなどと思い至るまでもなく、Google検索と示されたボタンひとつでウフッフーと羅列されてしまう。だからいま気になるのはむしろ、探していたわけでもない本のことだ。つい気になって手にとってしまう、その本と人との出会いが生まれているところや、その周辺で起こっていること。そのことが気になって仕方がない。

* * * * * * * * * * * * * * * * * 

 ぼくが高校生だった頃、元日の原宿には行列ができていた。神宮前交差点を蛇のように迂回して、ずっとずっと先まで。今もできているのかもしれないが、裏原全盛の当時のそれは悪い冗談みたいに長くて、ご多分に洩れずSMART読者でほどほどにNIGOに憧れていたぼくも、一回は足を運んだものの「さすがに正月早々こんなに並ぶのはしんどいなあ」とそれきり避けていた。ラフォーレ原宿毎年恒例、初売り福袋。あれを買うため、ただそれだけのための行列。福袋といえば、真っ先にあの行列が目に浮かぶ。

 ぼくは古本屋だが変なことをよくするので、売っている本を「福袋みたいだね」と言われたことが今までに2回ある。2商品、と言ったほうが正確かもしれないけれど、ひとつめがイベントに出張するたびにいつもやっている「文庫本葉書」で、ふたつめが昨年渋谷パルコロゴスギャラリーで開催した「新世紀書店・仮店舗営業中」の一企画「Her Best Friends」だ。どちらも本が一冊、紙にくるまれていて、福袋同様、中身がなんなのかわからない。前者はぶ厚い絵葉書のような体裁をしていて、表面に住所とメッセージを書くスペースがあり、裏面に中身の本の一文を抜粋したものが印刷されている。後者はまず壁一面に色々な人の顔写真が並び、それぞれの写真にその人の出身地と好きな食べ物と本の値段が付記されていて、番号対応させた包みがその下に積んであって、中にはその人のオススメの本が入っている。両方とも当然、一冊ずつ中身が違う古本だ。

 これがどちらも、びっくりするくらいよく売れた。だから最初、人に「福袋みたいだね」と言われたときには「そうか、福袋って不況に強いって言うしなあ」と、あの原宿の行列を懐かしく思い出しながら重ねて考えたりもした。けれどちょっと考えてみれば判るとおり、あの行列に正月早々並ぶことと、イベントに出てきてわざわざこの「文庫本葉書」や「Her Best Friends」を買いたくなることとは、決定的に違う。もちろんそのギャンブル性というか、開けるまで中身がわからないワクワク感は似ているけれど、別に過剰在庫品をたくさん抱き合わせて安く売っているわけではないので、福袋にあるようなお得感はない。仮にそんなことをしてみたところで、なんてったってこちらは本だ。普通の商品とはわけが違うというのが相場なのだ。

 本はスナック菓子やシャンプーと違って、そもそもそれ自体が紙にして綴じた情報の塊である。立ち読みすれば全ての内容が分かってしまうし、やれ装丁だ時代背景だ作者の人間性だ推薦する芸能人だと、本文以外のコンテキストも山ほど押し寄せてくる。しかもその情報環境をテクノロジーが日に日に加速させていって、さらに年間何万点と刊行され続けているときたら、そもそも優柔不断なぼくらにとって、一冊の本がどんどん「選びにくく」なっていっていることは明白だ。

 「文庫本葉書」や「Her Best Friends」が売れるのは福袋的なワクワク感だけではなく、その「選びにくさ」から本をうまく脱出させているからなのだと思う。一冊の本のまわりにあふれる情報を、「一文の抜粋」や「オススメする人」だけに、ギュッと限定してみる。するとイベント会場のようにじっくり選んでいる暇がない場所でも、次々と比較検討することができるのだ。その選択基準は、前者ならばちょっと続きの気になるフレーズだったり、後者ならばたまたま同郷の人だったり好みの顔だったりする。そんな選び方は邪道だとする人もいるだろうが、少なくとも「百万人が泣いた!」とか「当店イチ押し!」とかいった文句に釣られてしまうよりは、ずっとましな買い方ではないだろうか。それはほとんど単なる偶然の出会いではあるものの、間違いなく買う側の基準で選ばれた本になるのだから。

 ところで「福袋研究会」というサイトを主宰している恩田ひさとし氏によると、今春発売の福袋では三越が仕掛けた「中身が見える」が重要なキーワードらしい。「中身がわからないから福袋にはプチギャンブル性があり、それが魅力となっているのにだ。中身がわかってしまえばそれは福袋ではなく、セット販売のバーゲン品である。」と、恩田氏も書いている。どうやら当の福袋業界では、すでに逆転現象が起こりつつあるようだ。

◆福袋研究会:http://www.onda-honpo.com/fukubukuro/

([本]のメルマガ 2005.01.05. vol.200 http://www.aguni.com/hon/
[PR]
# by uchnm | 2005-01-05 12:00 | 本と本屋
好きな本屋で本を買う、ということ。
お会いするたびに色々教えていただく出版業界の大先輩、某取次のKさんから先日「内沼くん、ABC行った?」と聞かれました。あれだけ書いたぼくは当然「もちろん行きましたよー」と答えたものの、「何か買った?」と聞かれ、沈黙。そう、そういえば、復活を喜び、変化を発見し、色々と考え、それでも、結局買ってないんです。本屋について書いたりしているものとしてこんなことではいけないなあ、と、深く反省したのでした。

ここを読んでいるような人であれば誰しも、好きな本屋、というのがあるでしょう。例えば一番好きな本屋、一番なくなってほしくない、がんばって欲しい本屋、というのを思い浮かべてみてください。はい、あなたが一番たくさんの本を買っている本屋も、その本屋でしょうか?

ご存知の通り、書籍には再販売価格維持制度(再販制)というのがあり、日本国内北海道から沖縄までどこの書店でも、基本的に同じ本の価格は同じです。ということは、ある本を欲しいと思ったとき、それをどこの本屋で買おうと、あなたにとっては変わりません。食べ物のように賞味期限があるわけでもないですから(あってせいぜい刷数が違うくらい)、「出会う」とか「探す」とか「便利」とかいった要素をひとつずつ引いていき、欲しい本が目の前にあるという状態まで限れば、極論すると全ての新刊書店はまったく差がないのですね。

そのとき、あなたが毎週買っている週刊誌があるとしましょう。あるいは広告をみて欲しくなった新刊本でもいいです。それを、どこで買うのか。週刊誌なら、出かける途中のコンビニにも売っているわけなんですが、そこをぐっと我慢してぜひ、一番好きな本屋で買いましょう、というのが、今回のお話です。

たしかに好きな本屋が、ちょっといい本が揃っているような店であればなおさら「どこでも売ってるしわざわざここで買うことはないなあ」「こんな本を買うのはちょっと恥ずかしいなあ」などと思ってしまう気持ちも分かります。しかし本屋も商売で、その本はどこで買っても同じだということももう一度考えてみれば。そう考えればどんな本でも、その本屋に投資するような気持ちで、「これからもがんばれよ!」と心の中でつぶやきながら、その本屋で買うのがスジってもんです。

これ、ほとんどKさんの受け売りです。だからこそ、あれだけABCへの愛を述べ立てたぼくがこんなではいけないなあ、と思い、自戒の意味も込めて、またブログを通じて小さく叫んでみました。ぼくも今度ABCに行ったときはちょっとでも、お金を落としていこうと思います。ちなみにぼくが一番よく新刊の本を買うのは、もちろんバイト先の往来堂なのでした。みなさんはさて、どこですか?
[PR]
# by uchnm | 2004-12-02 00:28 | 本と本屋


はじめての方へ
■■news■■この連載の他、大量の書き下ろし原稿を含む、内沼晋太郎初の単著が発売になりました!詳細はこちら

「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
mixi
以前の記事
フォロー中のブログ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧