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第40回:これから面白くなるかもしれない洋書のこと
ぼくは、ほとんど英語が話せない。読むのもスピード自体ものすごくかかるから、実践には到底使えない。それもたいていはだいたいの意味しかわかっていないし、そもそも意味を取り違えていることも多い。どうにかしなければと、なるべく読むようにしているけれど、いまのところは全然だめだ。

日本で一番大きかった洋書取次、洋販が自己破産してからもう2ヶ月が経とうとしている。その内容の詳細も、かつての社長を中心とした経緯も、ブックオフによるABC支援の話も、既に多くの人が書いているので。特に詳しい人間でもないぼくが繰り返すことはやめるけれど、とにかくまず多くの洋書取扱書店で行われたのは、在庫品のセール販売と、洋雑誌コーナーの苦肉の修正であった。

洋書取次は数多くあるけれど、特に週刊や月刊のメジャーな洋雑誌に関しては、ほぼ洋販が独占していた。だから洋雑誌コーナーを持っている書店ではそれまで扱っていた雑誌が入荷しなくなり、たいていは見た目や話題が洋風の雑誌で埋め尽くしたり、特集を組んだりしていた。『+81』で埋め尽くされた棚も見たし、『m/f』と『mommoth』のバックナンバーフェアをやっているところもあった。それらは、いつしかまた洋雑誌の取扱が可能になる日を待っているように見えた。

ところでぼくが自分の仕事を説明する中で、本のコーディネイトについて話をするとよく「洋書とかですよね」と言われる。〈アパレルやカフェ=写真集や画集などを扱っている=洋書〉というのがたいていの人のイメージのようで、実際ぼくは和書をメインにすることが多いのだけれど(その理由は説明すると長くなるのでここでは割愛するけれど)、それ以前の事実として、もちろん写真集や画集ばかりが洋書ではないのだ。世界で一番流通しているのは英語で書かれた活字の本のはずなのだけれど、ぼくらは日本語というマイナーな言語を母国語としている。実際それらの流通量はとても少ない。

オンライン書店のAmazonでは、ただ検索性が高く家に持ち帰る手間がかからないというだけではなく、洋書の値段もいちばん安いことが多い。絶版になって見つからないものも世界中のオークションサイトで探すことができるし、洋書は和書よりもずっと、インターネットの優位性が発揮される商品なのだ。もちろん洋販以外の取次も数多くあるし、日販が新しく子会社を作るということではあるけれど(※1)、その大前提は変えることができない。

しかし実際は英語がある程度できたり、あるいはぼくのように勉強しなければと思っている日本人は山ほどいる。グローバル化するビジネスにおいて云々というまでもなく「英語くらい話せなきゃね」という風潮は未だ高まる一方だ。にもかかわらず、洋書に「出会う」ことができるリアルな場所に存続の危機が訪れてしまうというのは、なんだかきびしい現実だ。

それはぼく自身がそうであるように、ふらりと訪れた書店で洋書に「出会う」楽しみを味わえるほどの英語力がなかったり、もしくはその英語力はあっても読書の習慣がなかったりすることの表れでないとも言えない(そして、今はまだ回復し存続する方向に向かってはいるが、同じ危機が洋書だけでなく、本そのものにも訪れないとも限らないことを示唆していないともいえない)。

ぼくは最近「〈本〉をブランディングする」ことの重要性をずっと感じていて、そろそろ動き始めようと思っていたのだけれど、ひょっとするとそれ以前に「〈洋書〉をブランディングする」ことのほうが重要なことかもしれない。時代をイメージするのに書店の棚というのはとても生きたメディアだと思うけれど、洋書にリアルで「出会う」場所を成立させられない(そして仮に存在しても使いこなすことができない)ということは、世界のことをイメージするための道具をひとつ失うということだ。「英語学習」自体はこれほどメジャーでイメージもいいのに、それが力強く「洋書」に紐づいていないことには、国レベルのキャンペーンを行ってもいいくらいの、もっと根本的な問題解決の糸口があるような気がしてならない。

その一方で、ブックオフ白金台店は売場面積80坪、在庫4万冊という、グループ最大の洋書売場を設置した(※2)。記事によると「港区は、人口の1割強に当たる22,000人が外国籍の住民。各国の大使館や領事館などの施設が多数あり、洋書の需要が見込める」とのことで、特殊な立地に拠るところが大きいが、「今後は海外の店舗とも連携し、アメリカやフランスの店舗利用者から買い取った洋書を直輸入して販売する」とのことで、つまり洋販同様、輸入業をやるということだ。和書においてもブックオフの功績(もちろん意見を異にする人もいるだろうけれどぼくは「功績」だと思っている)は大きいが、ABCをブックオフが支援するというのと時をほぼ同じくしてこういうことが起こると、日本の洋書を変えるのもひょっとしたらブックオフなんじゃないか、という気もしてくる。なんにせよ今だからこそ、洋書が、これから面白くなりそうな予感がするのだ。

※1:日販 洋書輸入販売の新会社を設立
http://www.nippan.co.jp/news/2008/0826.html

※2:白金台の「ブックオフ」がリニューアル 洋書売り場強化、4万冊に
(品川経済新聞)
http://shinagawa.keizai.biz/headline/371/
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by uchnm | 2008-09-25 00:00 | 本と本屋


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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
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