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第38回:一番大きな、本のイベントのこと
 2週間ほど前の話になってしまうけれど、今年も東京国際ブックフェア(※1)に行ってきた。ぼくはいつも、りんかい線の国際展示場という駅で降りる。改札内に昔、コインを入れてインターネットができるマシンがあったけれど、久々に訪れたらその場所は宣伝ブースのようになっていて、ガラスケースの中にどこかのメーカーのエコ洗濯機か何かが置いてあった。都内の地下鉄の駅構内でたまに古本を売ったりしているけれど、あれをこの期間中のこの駅でやったら一番売れるんじゃないだろうか、とか考えながら(関係ないけれど最近、東急沿線の売店に「ヨンデルとサガーデル文庫」という新刊書籍のコーナーがあってひそかに注目している。オフィシャルの情報が何もないのはなぜだろう)ビッグサイトに向かっていたら、どこかの出版社の雇用関連のデモはきちんとこの機会に合わせて、道の途中で行われていた。

 ビッグサイトに到着して、一通り見て回る。ある出版社のブースにいた人は「年々業界人よりも一般人のほうが多くなっている」と言っていた。もともと主催の会社はビジネスショーを行うのが専門で、メーカーとバイヤーが商談を行うための場づくりやそのためのアドバイスには長けているのだけれど、利益率が低くアイテム数や新製品が圧倒的に多いこの業界にその基本的な考え方が当てはまらない(海外との版権ビジネスは別だ)ということは、参加者の多くが感じていることだろうとは思う(そもそもこのメルマガの読者と、この東京国際ブックフェアの来場者は、かなりターゲット属性が近いというか、重なっていそうな感じがするのだけれど実際のところはどうなのだろう)。

 だけれどぼくにとっては、行く度に何らかの発見や出会いや、新しい情報がある。特に電子書籍はじめとする出版を取り巻くデジタル技術については、最新のものに実際にまとめて触れることができる貴重な機会だ。出展している出版社の人と直接話ができることも大きいし、各社力の入れ具合にバラツキはあるものの、じっくり向き合えばたくさん面白いことがあるような感じがする。ところが一方で、ふだん出版業界の人と話をしていると「なんだかんだで、だいたい毎年顔は出すけど、行っても面白くないんだよね」という人も多かったりする。

 イベントにおいて出展数や集客がそのままひとつの力であるということは、たとえホームパーティのようなものでもいい、どんな小さなイベントでも、ひとつでも企画したことがある人ならばわかるだろう。基本的に、たくさん人を呼ぶというのは、難しい。それを継続するのはさらに難しい。そして面白い人がたくさん来るイベントなら、そこには何かが起こる。たとえその人たちの一部が付き合いで顔を出しているだけだとしても、その人たちに訴える魅力的なコンテンツがあれば、誰かは足をとめるだろう。そしてこのイベントは、とにかく人は多い。ビジネスのチャンスはいくらでも転がっているのだ。

 もちろんただ多くても、自分のビジネスのターゲットでない人ばかりでは仕方がないし、いったいどうやってそのビジネスのチャンスをつかむのか、といえば、それはケースバイケースなので、ただ「チャンスはある」と言い放ったところで何も言ったことにはならない。ただひとつだけぼくがここで言えることがあるとすれば、多くの出版業界の人が、なんだかこのイベントに対して妙にネガティヴだったり、シニカルだったりするのはどうか、ということだ。

 このイベントが面白いものになれば、出版業界は変わるかもしれない。少なくともぼくはそう感じて(ご存知の方もいると思うけれど)新卒の時にこの主催の会社に入った(そして中からは変えにくいということに気づき二ヵ月半で辞めたのだけれど、その話はまたいつか)。今から他の誰がどういう風に始めたところで、これだけたくさんの出展者と来場者を集めるイベントに成長させるのには、いったい何年かかるかわからない。何年かかっても、できないかもしれない。

 たとえばぼくが毎年訪れるイベントのひとつに、デザインタイドというデザインのイベントがある。同時期に他にもいくつかのイベントが行われ、デザインウィークと呼ばれて業界の年間スケジュールの中のひとつの山場をつくっている。それぞれのイベントに対しての賛否両論はもちろんあるけれど、デザイン業界の人はたいてい、何か新しいプロジェクトをはじめる時、その発表のタイミングとして必ず、このデザインウィーク期間中にどこかに出展する可能性を選択肢に入れる。もちろん来場者には、「知人が出ているから」と付き合いで訪れる人もたくさんいるだろう。しかし少なくとも、出展者はもうちょっと真剣なようにみえる。

 ところが東京国際ブックフェアに訪れると、何のために出ているのだろうという出展者がたくさんいる。仮設のブースそのままにただ商品を並べてボーっと座っている人がいるだけで出展しているブースを見ると、コンテンツをつくっている会社がそれでいいのだろうか、と思う。こういうイベントでは、ブースの見た目からいる人の佇まいまで、空間ごとすべてコンテンツなのだ。失礼を承知ではっきり言うけれど、あれではまるで100円ショップのノートに落書きを書いて「雑誌です」と売っているようなものだ。いくら低予算で経験もないとしたって、手作りでもなんでも、もっといくらでもいいものにできるだろう。

 まず出展者のほうから少しずつ、意識を変えていくこと。あるいは来場者はその場所をできるだけ、積極的に活用してみようとすること。何でもいいから情報をつかんだり、人と知り合ったりしてみること。パーティに来たようなものと思えばいい。繰り返しになるけれど、今から新しく立ち上げてあれほど人を集めるイベントに成長させるのには、いったい何年かかるかわからない。版元と取次と書店、そして読者が、こういった形で一同に介する機会は他に存在しない。それぞれがこの一番大きなイベントの未来を、業界の未来をつくるひとつの場として、当事者としてポジティヴにとらえようとすること。少なくとも「あのイベントはなんだかなあ」とぼやく風潮だけは、なんとか止めたいと思うのだ。


※1:東京国際ブックフェア
http://www.bookfair.jp/
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by uchnm | 2008-07-25 00:00 | 本と本屋


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