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第32回:写真を贈る
 夏ごろのことだったか、「内沼さん、写真を贈る、っていうテーマで、本がらみで、何か面白いアイデアを考えてくれませんか?」という依頼をうけた。こういう類の「何か面白いことを考えろ」はとてもうれしい依頼で、ぼくの場合、いいアイデアはふと浮かんだものではなく、こうして人に与えられた条件の下で生まれることが多い(まったく関係ない話だけれど、お酒の席などで何のテーマも与えられずに突然「何か面白いことを話せ」とふられるのはとても苦手だ。あれが得意な人はすごいと思う)。

 この依頼は『写真以上写真未満』(※1)という書籍の企画で、写真の専門家に限らずいろいろな人が、それぞれが考えた写真の楽しみ方を紹介する、というものだ。企画監修のgg(※2)とは以前から仲良くさせてもらっていて、「写真を撮る」や「写真を飾る」などそれぞれ担当する人が何人かずついる中、「写真を贈る」というテーマが与えられた1人が、ぼくだというわけである。

 写真を「贈る」のは、ふつうに考えるととても難しい。もちろん、デジタルカメラの高性能化・低価格化や、携帯電話の普及とそのカメラの高性能化によって、まともな写真を「送る」手段はとても多くなった。軽量のものならメールに添付するもよし、大量にあればどこかのウェブサイトやオンラインストレージ上に、パスワード制限をつけて公開するもよし。しかし、そうして「送る」のが手軽になったからこそ、あらためて自分が撮った写真を誰かに対する「贈りもの」にするのには、何かしら「特別なもの」にするための工夫が必要になる。写真立てに入れて贈る、というのは常套手段だ。しかしぼくに求められているのは「本がらみで、何か面白いアイデア」であって、もちろんそういうことではない。

 最もシンプルなアイデアは、その「贈る」写真の内容と、相手のイメージとに合わせて、本をセレクトして「本と写真とを一緒に贈る」ということだ。ちょうどこの連載で2年ほど前、「本を贈る」という題で書かせていただいたことがあって(※3)、そのときぼくは「本ほど、相手のことを真剣に考えなければ贈れないものはない」というようなことを書いた。写真も、そうだと思う。ましてや誰かが書いた本とは違い、自分で撮ったものだ。美しく撮れた日常の風景の写真なのか、旅先の写真なのか、それとも相手本人が映っているいつかの思い出の写真なのか、あるいは遠く離れた自分の近況を伝える写真なのか?選択肢は撮った写真の数だけある。

 ただ「本と写真とを一緒に贈る」その贈り方のコツのようなものを解説するのでもいいけれど、どうせならばそれよりも、もうひとつ何か面白みのあるアイデアを提供したい。そう考えてぼくが最終的にたどり着いたのは、「文庫本写真立て」というものだ(※4)。一番きれいにできるのは、岩波文庫か新潮文庫。その2つの文庫の中から、贈る本を1冊選んで買ってくる。この2つの文庫は、表のカバーをはずすと、クラフト色の表紙の上に、ちょうどいいサイズの枠のようなものがある。その枠を残すようにして、タイトルや著者名が書かれた中の部分をカッターでくり抜く。もちろん表紙だけだから、中身には傷がつかない。タイトルや著者名は、背表紙にも、中表紙にも書いてあるので大丈夫。ちょっと大胆なようだけれど、初めてでも案外きれいに出来上がる。そして、そのくりぬかれた表紙の部分に、プリントした写真を見えるように挟む。最後に、ページの開いた部分を、バチ型クリップという、三味線のバチのような形をしたクリップでとめる。そのクリップは水平に自立する形になっているので、すると名前のとおり、文庫本が写真立てのようになるのだ。もちろん、ただ挟んであるだけなので、いつでも簡単に取り外して読むことができるし、普段は写真立てのように、どこにでも(もちろん本棚にでも)飾っておける。

 こうして本と写真との組み合わせを考える時間は、相手のことについて思いを巡らす時間だ。掛け算の選択肢は、それこそ無数にある。どんなものが欲しいだろう?どんなものをあげたら、どんな顔をするだろう?本や写真に限らず、すべての贈り物選びは、この時間がいちばん大切で、楽しい。

※1:『写真以上写真未満』(翔泳社)
http://www.seshop.com/detail.asp?pid=8371

※2:gg
http://www.lucky-clover.jp/

※3:「ぼくたちが本と出会うときのこと」第10回:本を贈る
http://uchnm.exblog.jp/3834168/

※4:「文庫本写真立て」
http://numabooks.com/bunko_photo/
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by uchnm | 2007-12-25 00:00 | 本と本屋


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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
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