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第30回:あらためて、ブックピックオーケストラのこと
 いまから4年ほど前、ぼくは新卒で入社した会社を2ヶ月と数日で辞めた。2~3年は勤めたほうがいいという人がたくさんいたが、ぼくが考えたのは「そんなことをしていたら25歳になってしまう」ということだった。当時はおそらく「第二新卒」という言葉が生まれたばかりのころで、その年齢制限がだいたい25歳までだった。そのとき23歳になったばかりのぼくは、自分のやりたいことと、その会社で得られそうなものとそのときの状況とを諸々考えあわせ、「2年間自分でやってみて、やっていけないと思ったら、そのとき第二新卒としてもういちど就職活動する」と決めて、いささか早すぎる辞職に踏み切った。そうして、学生時代に一緒に活動していた仲間の2人に声をかけ、自分のビジョンを伝え、それをもとに徹夜で話し合って、そのユニットに「ブックピックオーケストラ」(※1)という名前をつけた。

 既に北尾トロさんの『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』(※2)をはじめとするネット古本屋の本が何冊か出ていたころで、ネットビジネスのひとつとしても静かに注目されていたころだった。既にものすごい数のネット古書店があり、ぼくらはいわば後発だった。会社員だった頃にその本を読んだとき、ぼくにはだいたい3つのことが頭に浮かんでいた。1つ目は、ぼくにとってその大半がただ目録が羅列されているだけのサイトであり、そのビジネスモデル自体がせいぜい一人が食べていくのがギリギリのものであったこと。2つ目は、いわゆる「テキストサイト」が全盛の時代で、日本中に面白い書き手がたくさんいて、そこに面白い文章があればきちんとアクセスのあるサイトがつくれること。そして3つ目は、学生時代にやっていた活動のおかげで、たまたま編集やデザイン、イベント運営などができる仲間がまだたくさんいたことである。

 一人で、お金を目的としてやっているとできないことを、複数の人数で、影響力を目的としてやる。一冊の本を売ることに関して、雑誌のような企画を立てたり、コストを度外視した量の解説テキストを書いたり、あるいはクラブやギャラリーなどに出張して販売したりした。本を中心としたカルチャーに関するウェブマガジンとして、ほぼ毎日テキストを更新するようにした。そうして、他のネット古書店を運営している人たちや、ネットでテキストを読んでいる人たちに、ほんの少しずつ、知っていただけるようになった。もちろんメンバーは、別の仕事で収入を得る。ぼくは千駄木の往来堂書店(※3)で新刊書籍のことを勉強させてもらいながら、できるだけ割のいいアルバイトや、ライターやデザインやウェブ制作などの仕事を個人的にいろいろと請けながらなんとか生活していた。

 そして今。横浜でやっていた [encounter.] (※4)が多くのメディアに取り上げられたせいか、たくさんの人が「知ってるよ」とか「聞いたことある」とか言ってくれるようになった。ぼくが「25歳まで」と決めて個人的に模索していた職業の問題も「ブックコーディネイター」という肩書きではじめたいまの仕事がなんとか形になりはじめ、その活動に屋号として「numabooks」(※5)という名前をつけた。ブックピックの代表は最初からぼくと一緒にやってきた川上に交代したが、ぼく自身も発起人兼プレス的な役割で、いまもその活動に中心的に携わっている。その間に出入りはあるものの、常に十人前後のメンバーがみなそれぞれの「本への思い」を抱えながら、それぞれの役割をもって参加している。当然皆がそれぞれ別の仕事をしているから、だいたい土日のどちらかに、ミーティングや作業が行われる。

 そしてつい先日も、「ブックピックの今後の活動」に関する長めのミーティングを行った。あらためて「どういうチームであるべきか」ということを話し合い、そのときやっている活動を列挙し、それぞれがどんなことに関心があるのか、そのために次にどんなことをやりたいかということを話し合う。この4年間で節目節目に、本当に何度も重ねてきた議論だけれど、そのたびに古くからいるメンバーにも変化があり、誰かはいつしか顔を出さなくなり、そのぶん新しいメンバーも増えていて、そのうえ自分たちの活動のみならず、世の中の本や出版をめぐる状況も変わっているから、当然のことながら少しずつその内容も、新しい方向へ向かっていく。

 ぼくがそのミーティングで確認したかったのは、つねに「前衛」である必要のことだった。実験的な売り方を常に提案し、その背後にあるコンセプトや思想を常に発言し続けるべきで、そのためにオフィシャルブログを立ち上げ、未完成のアイデアなどもどんどん公開していこうと思っているという話をした。一方であるメンバーは、より本のセレクトや並べ方のこと、本そのものについての深みのある知識のほうを強めていくべきだと主張する。当然、どちらも必要なことだ。

 ぼくらの「複数の人数で、影響力を目的として」という強みは最初から変わっていない。実店舗という活動の拠点こそ失ったものの、その強みはただどんどんと強まっているということを再確認した。金銭的な利益を追求しないと宣言するからこそ、本をめぐる経済に対してより敏感でい続けること。本を読まない人にその面白さを伝え、本を読む人にはより多くの楽しみに気づいてもらえるような、提案をしつづけること。5年目を迎えるこれから、ぼくたちにはどうやらまだまだ、やれることもやりたいこともたくさんあるようだ。


※1:ブックピックオーケストラ
http://www.bookpickorchestra.com

※2:北尾トロ『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』(風塵社版は2000年刊。現在はちくま文庫で文庫化もされている)
http://www.amazon.co.jp/dp/4480420673/

※3:往来堂書店
http://www.ohraido.com/

※4:book room[encounter.]
http://www.super-jp.com/bookpick/encounter/

※5:numabooks
http://numabooks.com
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by uchnm | 2007-09-25 00:00 | 本と本屋


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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
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