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第27回:あらためて、紙とウェブ
 前回、5月25日のこの連載でぼくは「twitter」というウェブサービスのことを書いた(※1)。それから1ヶ月。1ヶ月しか経っていないのにというべきか、1ヶ月も経ったからというべきか、もう既に様相はだいぶ変わってきたように思う。

 ぼくが書いた段階では、すでにネット上ではだいぶ盛り上がっていたものの、ギークスのものという粋をまだ出ていなかった。6月12日発売の『SPA!』に、ぼくの知る限り一般メディアとしてはおそらく初めて「ブレイク寸前『twitter』先取りガイド」という特集記事が出た。その力かどうかはわからないが、この1ヶ月でだいぶ一般にも存在が知られるようになってきた。

 その一方で、類似サービスのどこが天下をとるのかあるいはどこもとらないのか、という攻防戦はヒートアップしている。SNSにおけるmixiのように一般に了解されたものとして普及するのは、安定したサーバ環境といった基本的なことに加えて本当にちょっとしたインターフェイスの違いとタイミングによる、ということに多くの人が気づいているために、サービス提供者は今なお増え続け、アクティヴなユーザーはいくつもの類似サービスを使い比較している。たった数日で勢力図ががらりと展開するようなことも、そこかしこで簡単に起こっている。

 ところで小学館が総売上高で講談社を抜いたという(※2)。6月19日、朝日新聞およびasahi.comの記事によると、雑誌と書籍の売上高では依然として講談社が100億近く上回っているが、広告収入や映画の配当、キャラクター等の著作権料が含まれる「その他」の売上高では逆に小学館が113億円上回っており、それによって差を埋めて首位になったということだ。いまさら言うまでもないことだが、人気の専属モデルやアニメキャラクター、映画化に値する原作など、金の成るコンテンツに関して独占的な展開をしていくことが最大のビジネスになっていく、総合コンテンツ産業としての大手出版社の姿を、あらためて浮き彫りにするニュースである。

 前回「インターネットのトレンドに最もアンテナが高くなければいけないはずの出版業界に、なぜだか『疎いから』といってギリギリまで試さずに済まそうとする人がひときわ多い気がする」と書いたけれど、twitterに関するこの展開のスピードと、小学館と講談社に関するこのコンテンツ産業としてのリアルな姿に、その「疎さ」の深刻度はどんどん増してきていると感じる。放送業界とインターネット業界という軸を持ち出すまでもなく、テレビの衰退も肌で感じられるようになってきた。いまや、メディアといえばまずウェブ、となりつつあるのだ。どんなコンテンツも、その伝播の過程まで含めれば、ウェブ上で展開されないことはほぼ全くないといってよい。

 『あしたのハーモニー』というウェブマガジンが創刊した(※3)。タモリこと森田一義が編集長、創刊したのは自動車メーカーのトヨタである。テーマはエコ。企業がウェブ上でこういったブランドイメージ構築のための媒体をもつということ自体は新しいことではないが、このサイトはウェブの特性をとてもよく考えてつくられている。ぜひアクセスして実際に触ってみていただきたいのだけれど、従来「紙にしかできないこと」だった「ページをめくる」という行為が「紙のほうが得意だけれどウェブでも十分にできること」というレベルまで進化しているというだけでなく、同じく「紙にしかできないこと」だった「ふせんを貼る」という行為をアクセスしたユーザー間で共有できるものにしたことにより「ウェブにしかできないこと」にまで引き上げている。

 この「ウェブにしかできないこと」と「紙にしかできないこと」、「ウェブのほうが得意なこと」と「紙のほうが得意なこと」、そして「ウェブでも紙でもできること」という3つのレベルは、はっきりと分けて考えなければいけないだろう。「紙のほうができること」という程度のことはすぐに「ウェブのほうができること」になっていくほど、技術の進歩のスピードは早い。一方のtwitterのような「ウェブにしかできないこと」からは、今までにない新しいコンテンツが生まれる。それにアンテナを張りながら「紙にしかできないこと」を知ること。ぼくは大手出版社がどうやって生き残っていくかということよりも、本がどうやって生き残っていくかということのほうを考えていきたい。そのためにインターネットをウォッチし続けることを、ぼくはしようと思うのだ。


※1:「ぼくたちが本と出会うときのこと」第26回:今、何してる?
http://uchnm.exblog.jp/6898608/

※2:asahi.com:小学館、総売上高で講談社抜く 初めてトップに
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200706190249.html

※3:あしたのハーモニー
http://toyota.jp/harmony/
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by uchnm | 2007-06-25 22:48 | 本と本屋


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