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第19回:あるテーマを特集した古雑誌を集めてみる
 ある企業の主催するイベント(※1)の、空間デザインのほんの一部をプロデュースする、という仕事をいただいた。このメルマガの発行日当日に、あなたにこの文章を読んでいただいているのであれば、ちょうど明日行われるイベントだ。「空間デザイン」などと言うとなんだか聞こえがいいが、ぼくが請けた仕事は本当に「ほんの一部」にすぎない。その空間に並べる古雑誌のセレクト、である。

 さらにそれらの古雑誌は、閲覧することすらできない。その空間を訪れた人にぼくがプレゼンテーションできるのは、それらセレクトした古雑誌の背表紙の部分のみである。背表紙の並び具合で、いかに雰囲気を作るか、そしていかに語るか。それがぼくの仕事ということになった。

 なんでそんなことになったのかもう少し詳しく説明すると、古雑誌の収納保存を兼ねたスツールをデザインした方々がいて(※2)、そのスツールがその会場に設置される、というわけなのだ。スツールになった古雑誌は重ねて束ねられているから、中身を閲覧することはできないというわけである。そこでぼくはイベントの内容に合わせて、それぞれのスツールに異なるテーマを設定し、そのテーマを特集していてかつ背表紙のある雑誌を古本屋で探しまくるという、かつてない不思議な仕事をすることになったのだ。

 例えばひとつのスツールのテーマは、「いつか見た未来」とした。発行当時の技術を踏まえ、未来はきっとこうなるだろう、という何らかの予測を立てているような特集の雑誌のみを集めたのである。クライアントがPCやインターネット関連の企業であることもあり、特にそれらに関する特集を集めたのだが、それらの場合最も面白いのは10年ちょっと前、93~96年あたりのものだ。『スタジオボイス』などのサブカルチャー誌はもちろん『太陽』などの総合誌から『GQ』などの男性誌まで、「デジタル時代の著作権」から「マルチメディア革命に乗り遅れるな!」まで、それぞれの立場で、ちょうど今起こっているようなことが予言されていたり、外れていたりする。今からは考えられないような、当時の技術やサービスに思いを馳せるのも楽しい。

 実際は、こういった特定のテーマで揃えたスツールだけではなく、すでに廃刊になってしまった特定の雑誌を揃えたスツールも作った。しかしだいぶ前から言われていることだけれど、近年、特定の雑誌を毎号購読するというよりも、自分の興味に合う特集の号が出たらそれを買う、という買い方が主流になっている。しかもその傾向はどんどん強まってきていると聞く。ぼく自身の場合でもそうで、たいていどんな雑誌でも「本」特集ならばかなりの確率で買っているため、気づけば「読書」とか「本屋」とか「ブックリスト」とか「~の○○冊!」といったタイトルの雑誌が過去何年分も、何十冊も棚に並んでいる。

 こういう風にひとつのテーマで、特集ベースで雑誌がセレクトされているという状態は、ぼくのようなある仕事や趣味に基づいて集めている人の本棚を目にする場合を除いて、少なくともふつうの本屋ではあまり見かけるものではない。もちろん特定のジャンルに強い古本屋が意識的に関連するテーマを集めていることはあるが、それでも女性ファッション誌から文芸誌まで幅広く収集するというのは、ちょっとした古本屋よりもむしろ、オタクな個人が得意とするところのように思う。

 そしてそうやって集められた雑誌は、自分が仕事でやっておいて言うのもなんだけれど、はっきり言ってとても面白い。雑誌は時代を映す鏡とはよく言ったもので、発行された時期が違えばテーマが同じでも内容はまったく違う。また、時期が同じでも、雑誌のターゲット層が違えばやっぱり大きく違ってくる。それらを見比べるだけで、そのテーマに対して自分が持っていた視野がものすごく広くなる。そしてきっと、次の時代のことも、まず間違いなく見通しやすくなるだろう。もし興味があれば、ぜひあなたの古本屋めぐりの指針に加えてみて欲しい。

 ところでぼく自身はというと、実は逆に、雑誌の定期購読にハマりそうになっている。特定の同じ雑誌を買うか、いろんな雑誌を興味のある特集ごと買うか。これはある種、作り手への愛に関わる問題でもあると思っているのだけれど、それはまた、別の機会に。


※1:REMIX Tokyo (by Microsoft)
http://www.event-registration.jp/events/remix06/

※2:gift_lab
http://www.giftlab.jp/
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by uchnm | 2006-10-25 10:00 | 本と本屋


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