<   2006年 05月 ( 1 )   > この月の画像一覧
第十六回:本の置き場
 ぼくは千代田区三番町にあるシェアオフィス(※1)に入居して日々の仕事をしているのだけれど、今日仕事場に来てみると、シェア仲間のKくんが大きなキャリーケースを持ち込んで、本棚の本を入れ替えていた。ぼくたちは4月の頭に入居してきたばかりなので、まだそこに本を入れてから2ヶ月も経っていない。なぜ今そんな大幅な入れ替えをしているのかと聞いてみると、彼の本には仕事場用と部屋用があり、それぞれに1軍と2軍に分かれている(つまり全部で大きく4つの区分がある)のだという。当然その中の本はさらに内容別に分けられているのだけれど、昨日家の本棚を見ていたら、ここに入居してから仕事のスタンスが変化してきており、その中に大幅な移動(異動?)が必要なことに気がついたのだというのだ。

 彼はフリーランスで、仕事の内容と自分の興味とが比較的近いため、いわゆる仕事の本とそうでない本という境界はそんなに明確なものではないはずである。だからこそこういう大幅な「異動」が起こりうるわけだが、彼の話を聞いて、本が生活に寄り添っている人であればあるほど、色々な本の置き場を持ちそれらを使い分けているのではないか、と思った。

 たとえば彼の場合、一番優先度の高い「自分が辿ってきた道を示している」本は、いつも細かく参照するようなものではないが、タイトルを眺めて自分の立ち居地を確認するために、常にデスク横の一番いい場所に置いてある(おそらくこれが「仕事場」の「1軍」であるはずだ)。一方、たとえば哲学書などは、部屋のベッドの横の、寝転がって横を向いたときにちょうど自分の目の前に来る位置に並べてあり、眠る前にパラパラと捲ったりするのだという(これは「部屋」の「1軍」なのだと思う)。

 ぼくの場合であれば、一人暮らしをしていたときは、軽い雑誌やフリーペーパーの類はトイレに置いていた。いま、大抵の本は自分の部屋にあるが、小説は枕もとの小さな棚に入っていて、読み途中のものと読了済みのものに分けている。壁沿いにはその他の本がジャンル別に整理されて入っていて、仕事で必要になるとその都度引っ張り出し、オフィスに持っていって、机の上に積んでおく。机の後ろの棚には、よく参照する資料を中心にしつつ、なんだかかもって帰りそびれてしまった過去の資料やひとに借りている本など、節操なく置いてある。もちろん鞄の中には、読み途中の本が2~3冊入っている……といった具合だ。

 ところで考えてみれば、用途によって置き場所が決まっていて、生活に溶け込んでいるモノというのは、何も本だけではない。むしろ大抵のモノはそうで、文房具から家電まで、用途と置き場所が連動していない例を探すほうが難しい。それらと比べると、いわゆる大きな本棚があって所持している全ての本をそこに詰めるという発想は、何か不自然な気さえしてくる。本という商品の幅の広さから考えれば、もうちょっと自由に、生活空間の至るところに点在していてもいいようなものだろう。そういう意味ではぼく自身も、まだまだ「本棚に詰める発想」から抜け出せていないと感じる。

 たとえばぼくの場合、机の上やら、日々使っている複数のバッグやジャケットのポケットやら、手帳や読みかけの本の間やらに、同じボールペンがそれぞれ入っている。おそらく日によっては、そのボールペンを十本近く持っている時があるだろう。ぼくにとってボールペンはそのくらい、いつどこからでも出てきて欲しいものなのだ(ちなみにこのスタイルをとって以来、ボールペンを紛失する本数はむしろ減った)。ボールペンはぼくの生活のいたるところに点在し、完全に密着している。もちろんボールペンと本とではだいぶ違うが、とはいえ本がそれくらい生活に溶け込んだら、ちょっと素敵ではないだろうか。

 そういえばちょっとしたインテリアショップでは大抵、机の上に花瓶が置いてあったり、ソファの上にクッションが置いてあったりする。このときこのショップでは「花瓶」や「クッション」という商品それ自体に加え、「机の上」や「ソファの上」という置き場の提案まで含めて販売しているということができるだろう。もちろんこれは商品の単価が高いからできるわけで、本を置き場ごとさりげなく提案するような書店(机の上に置く本、寝室に置く本、食卓に置く本、トイレに置く本……という具合に)を単体で想定するのは難しいけれど、いっそのこと書店+インテリアショップのようなお店(※2)をつくってしまえば、それもあながち実現不可能ではないかもしれない。


※1【co-lab】
http://www.co-lab.jp/

※2:書店+インテリアショップという形式には「finerefine」があるが、基本的には書籍のコーナーが別途設けられていて、そこの本棚に大半の本が詰められている。
【finerefine】
http://finerefine.jp/
[PR]
by uchnm | 2006-05-25 16:22 | 本と本屋


はじめての方へ
■■news■■この連載の他、大量の書き下ろし原稿を含む、内沼晋太郎初の単著が発売になりました!詳細はこちら

「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
mixi
以前の記事
お気に入りブログ
人気ジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧