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第十五回:本と音楽が出会うときのこと
 あるとき、偶然に同席した某カルチャー誌の編集者の方と、本の話をしていた。そのとき、話が子ども時代の読書にうつったとたん、彼は「ぼく、ショパンを聞くと、西遊記のことを思い出すんですよ。それは小さい頃西遊記を読んでいたとき、家の中でショパンが流れていたっていう、ただそれだけなんですけど。西遊記って、子供心には怖いじゃないですか。今でもショパンを聴くと、そのころの不安な気分とかが、そのまま自分に沸き起こってくるんです」という話をしてくれた。

 ある本を読んでいるときにある音楽を聴いていたことが強くリンクしているために、その本を読むとその音楽が聴こえてきたり、その音楽を聴くとその本の内容を思い出したりすること。そのとき周りにいた何人か聞いてみたところ、どうやらそういう経験がたくさんある人と、全くないという人に、パッカリと二分するようだった(ちなみにぼくは初期の吉本ばななを読むと、朝日美穂の曲が聴こえてくる)。

 昔、音楽誌の編集をしていて、今は広告代理店に勤めている友人がいる。彼はかなりの本読みで、音楽誌時代から何度も「音楽と本は別物だ」と言っていた。「もちろん、本があって音楽があって映画があって、いろんなものでその時代がつくられていく、というのはあって、80年代に書かれた本を読みながら80年代の音楽を聴く、とかそういうのは好きなんだけど、今の時代にそれを音楽誌でやることは、とても難しい。生まれてほしいな、という期待はしているんだけれど」

 どうやら本と音楽の結びつきには、少なくともこの2つがあるらしい。個人の記憶に根ざしたものと、時代に根ざしたもの。本はモノとして存在していて、それに対して能動的でなければ享受できないが、一方の音楽は音として空気中を漂っていて、日々受動的にどんどん流れ込んでくる(もちろんこれは基本的にそうであるという話で、電子書籍は形のないデジタルデータだし、能動的に聴く音楽というのももちろんある)。全く別物であり、だからこそ同時に楽しむことができる。逆に言えば、同時に楽しむことができるからこそ全く別物であると明言できるし、その間に流れるものにはいろんな種類があり得るということだ。

 自分の話で恐縮だけれど、一昨年に手掛けた「新世紀書店」というイベントをまとめた本が、つい最近出た(※1)。そのときぼくらはひとつの提案として、本とCDのセット販売というのをやったのだけど、そのときに思ったのは「どんな本にどんなCDでも、提案すれば意外と合ってしまう」ということだった。いま思えば、それは前者のような「個人の記憶」には、どんな本とCDの組み合わせも可能だ、ということであったと思う。

 そして次は、後者の「時代」にチャレンジしてみたいと思っている。たまたまカルチャー誌の書評コーナーをやる話をいただいたとき、その隣の音楽評のページをやる人がまだ決まっていないと言うので、両方まとめて編集ごとやりたいと提案したのだ(※2)。CD屋の店長と組んで、同じコンセプトのもとに本とCDをセレクトし、それらをミックスして並べた棚の写真と、その背景に流れるものについての文章を書く。どのくらい上手くいくかは分からないけれど、音楽誌でも文芸誌でもなくカルチャー誌であるからこそ、その難しさを回避できることがあるかもしれない。

 そういえば、作家でかつミュージシャンというひとは結構たくさんいる。学生時代から60年間ギターを弾き続けた深沢七郎、作家以前から作詞の仕事をやっていてその後自ら歌うようになった野坂昭如、伝説のパンクバンド「INU」のフロントマンだった町田康……彼らは果たしてどういうふうに本と音楽をつくり分けているのだろう。ちなみに最近ぼくはアリス・マンローを読みながら、クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーばかり聴いているけれど、これらは果たしてつながるだろうか。

※1:北尾トロ、高野麻結子(編著)『新世紀書店--自分でつくる本屋のカタチ』(ポット出版)
http://www.pot.co.jp/pub_list/pub_book/ISBN4-939015-86-6.html

※2:『言語道断』(メディアックス、曙出版/5月末創刊)
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by uchnm | 2006-04-25 12:37 | 本と本屋


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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
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