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第十四回:現代美術で本を考える
 以前、とある現代美術の展覧会にブックピック(※1)が誘われたとき、ぼくが考えた作品に「サガンの墓」というのがあった。古本のサガンの新潮文庫を、ダブっても構わずとにかく500冊くらい集める。ご存知の方も多いと思うが、サガンの文庫の背はピンクに白抜きの文字で、他の新潮文庫とは違うデザインでかなりの種類が出ている。そしてそれらは古本である以上、当然経年変化によって背中のピンクがそれぞれ違うふうに色褪せている。それらをグラデーションにして並べ、墓石くらいのサイズの本棚をつくりそこに隙間なく埋め、小さなサガンのポートレートと共に展示する、というものだ。

 時期的にもちょうどサガンが亡くなったニュースが流れていたばかりの頃で、シンプルではあるが、ぼくはその作品がすごく美しいだろうと思った。しかし残念ながら、ブックピックらしい作品ではないということであっさりメンバーに却下され(ぼく自身、当然気がついていたしそう思っていた)、実現できなかった。「個人名義でやるならいいんじゃない」とも言われたが、サガンばかり一人で500冊集めることはちょっと時間的にもかかりそうだったので、仕方なく諦めた。

 ともあれブックピックしかり「それ、はね(※2)」しかり、ぼくは現代美術のフィールドで素材あるいはモチーフとして「本」を取り扱うことについても、いくつか取り組んできている。それにあたって当然これまでの美術史上での位置づけについても学んだし、現代の作家もウォッチしているのだけど、中でも最近ずっと気になる存在だった施井泰平(※3)さんと、この間お会いすることができた。

 施井さんは1977年生まれの28才。現代美術作家としては若手ということになるが、先日のGEISAIで安藤忠雄賞を含む3つの賞を受賞し、かつなんと安藤さん本人が作品を購入されたということで、一部話題となった。そしてその今回安藤さんが買ったという作品も、まさに文庫本を使用した作品なのだ。本屋そのもののように、文庫本がランダムに並んでいる。しかしそれはあくまで本棚ではなく平面として構成してあり、使用されているのは実は文庫本のカバーの背を中心に切り取った一部分だけだ。

 施井さんは油絵科に在籍中、絵を読み解くという行為に興味があった。そのときふと本棚を見てインスピレーションを受ける。本のタイトルが与えるイメージ、ランダムな色彩。そして、本の背表紙を書いて一部分をコラージュとして貼りこんだ油絵をつくったという。しかしそのときにはその作品に限界を感じた。そのため、これはいつかつくろう、と暖めておいた。そうしてずっとやりたかったことを、今回ついに実現させることができ、結果、今までで最も大きな評価を得ることができた。

 最も苦労したのは、やはり古本集めだったそうだ。神保町の古本屋を一軒ずつまわっていったが、どこも相手にしてくれなかった。そんな中で親身になってくれたのが、すずらん通りの中山書店だった。ここの協力がなかったらこの作品はできなかった、と施井さんはいう。

 このように本を素材にした作品をつくる若手作家は、施井さんだけではない。例えば飯田竜太(※4)さんは本を素材として「彫る」ことでまるで地層のような断面をつくる作品で、第22回「ひとつぼ展」のグランプリを受賞した。また、ぼくと一緒に活動している「それ、はね」の作家・酒井翠さんは本をモチーフにした作品製作の傍ら、それらブックアート/アートブックと呼ばれる領域を勉強しながら紹介していくブログ「Books as Art(※5)」をはじめた。

 もちろん、これらの若手作家たちが出版業界に働きかけるインパクトは、強いとはいえない。しかし長引く出版不況や電子書籍の台頭によって本の存在価値が歪み、ゆらいでいる今こそ、本とは何なのかということについてあらためて考えるきっかけとして、これら現代美術によるアプローチは有意義だといえるだろう。逆に、そういった作品がここ数年であらためて多く出現してきていること自体が、そもそもその本をめぐる歪みを作家が感じとっているからだ、ということもできるかもしれない。

 実際、どこからどこまでが本なのかということは、今どんどんわからなくなってきている。電子書籍という名のデータは、書籍といっているが果たして本なのか。携帯電話で読むのと、いずれ実用化されるであろう電子ペーパーでできた真っ白い本型のディスプレイで読むのと、どちらも同じく本なのか。違うならばそれは形態の問題なのか流通の問題なのか、いったいどこで線を引くべきなのか。彼らの作品について考えていると、いつの間にかそういった疑問にたどり着く。ぼくもそろそろ「サガンの墓」を作るべきときかもしれない。
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by uchnm | 2006-03-25 20:29 | 本と本屋


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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
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