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「ぼくたちが本と出会うときのこと」第十回:本を贈る
 学生時代の友人5人組のひとりが結婚するというので、みんなで集まってお祝いをした。急な話で時間がなかったのだが、それでも彼女に何かちょっとしたプレゼントをあげようということで、相談した結果、残りの4人を代表してぼくが何か本を選ぶということになった。

 まず、結婚祝いなので、なによりもまずネガティヴでないもの、できるだけハッピーなものでなければならない(条件1)。次に、彼女は小説好きで、会うたびに色々薦めたり薦められたりしているので好みに関してはよく分かっているのだけれど、そのぶん、まだ確実に読んだことがなさそうでかつ好きそうなもの、という条件はかなりきびしい。よって贈り物である以上、今回は彼女が買うことがなさそうな、小説以外の本でなければならず(条件2)、とはいえ彼女が好みそうな、ある程度のストーリー性はあるものでなければならない(条件3)。そして最後に、ぼく個人からではなく、友人4人からのプレゼントであることの意味がある本でなければならない(条件4)。この最後の条件が、どう考えても一番難しい。どうやってそんな意味をつけたらいいのだろうか。

 ぼくは今、本屋として試されているのだ。普通ならばこんな条件では投げ出してしまいそうだけれど、大切な友人だし、プロのとしての意地もあるから、後戻りはできない。そう思ってまず、写真集にしようと決めた。ネガティヴな要素がないかどうかチェックするのに時間がかからないし、物語性があるものを選ぶこともできる。少なくとも条件2はこの時点でクリアできるし、条件1と3もぐんとクリアしやすくなるわけだ。しかもプレゼントした時に、そこに集まっているみんなで見ることができるのもいい。本当は外苑前の「shelf(※1)」にでも行ってじっくり選びたいところだが、残念ながらそんな時間的余裕はない。最後の条件である「4人からのプレゼントであることの意味」を見つけられるか不安になりながらも、仕方なく有楽町に向かう。待ち合わせの30分前、某大型書店。写真集コーナーはどこだ。2階だ。ここだ。少ない。どうする。あ。見つけた。絶対これだ。

 MOTOKOの写真集『京都(※2)』。ぼくらは以前、5人で、京都旅行に出かけたことがあったのだ。この本が、MOTOKOがライフワークとして撮りためていた京都の写真をまとめたもので、まるで頭の中の鮮やかな記憶をそのまま写したような、特殊な透明感を放っていることもよく知っていた。ぼくが薦めた柴崎友香の小説を面白がってくれた、彼女の趣味とも合いそうである。これしかない、という確信をもとにわりとあっさり決定し、レジへ。そして予約してある店へ。別の友人にマジックを買ってきてもらい、店の外に隠し場所を見つけ、みんなに携帯メールで知らせ、電話をかけに行くフリをしてそれぞれが寄せ書きをした。最後のひとりが持ってきて、渡した。もちろん大成功。やっぱり、本を贈るのはいいなあと思った。

 本を贈るといえば、まず4月23日の「サン・ジョルディの日(※3)」を思い出す人も多いかもしれない。一般にどのくらい浸透しているかはともかく、なんだかんだとフェアが行われるので出版業界の方はご存知だろう。もとは女性は男性に本を、男性は女性に赤いバラを贈るという、スペイン・カタロニア地方の風習に由来している。日本でいうと丁度バレンタインデーのようなものだろうか。そしてこのメルマガが発行される今日は、11月25日。クリスマスまで丁度1ヶ月というところである。そろそろプレゼント選びに入らなければ、と考えている人が多いと思われるこの時期に、ぼくは、ぜひ本もその選択肢に加えてみて欲しいと思うのだ。

 たしかに、本を贈るのは難しい。贈り物というのはただでさえセンスが問われるのに、本の場合は種類も豊富であるし(年間何万点、という数字はほかの商品にはなかなかないであろう)、いわば内容そのもの(しかもそれは読まないとわからない)を贈ることになるため、余計そのセンスが浮き彫りになってしまう。しかも貰う側にとっては、興味のない本を贈られたが故に読まなければならないことほど、ストレスになることはない。

 しかしその反面、真剣に贈ろうと思えば、必然的に相手のことをよく考えることになる。今回のぼくの場合、たまたま彼女の好みを知っていたので直感的に選べたが、そうでない場合は「ひょっとしたら相手のことをこんなに考えたことはないんじゃないか」というくらいによく考えなければ、本当に「これだ!」という本には出会えない。情熱的だといわれるスペインの女性が男性のために本を選ぶという話も、そう考えるとわかる気がしてくる。

 ぼくがやったように、写真集や画集などを贈るのはひとつのコツである。相手によっては、絵本というのもなかなかいい手だ。ただ、あえて相手のことで悩むという難しい道を選ぶものにとっては、小説など活字の本に勝るものはない。もちろん値段は、ほかのプレゼントに比べて安いかもしれない。しかしそこにはお金ではとても図ることのできない、膨大なプロセスがあるのだ。経済のことばでいえば、それもコストである。もしこれから、今年のクリスマスに誰か大切な人から本を贈られたならば、決してそれを「安く済まされた」などと思わないでほしい。贈った人が、どうしてその本を自分に選んでくれたのか。そこに行き着くまでに、どれだけ自分について思い巡らせたのか。そのことをひとりで考えたり相手に聞いたりして、楽しく過ごすのもまた、いいじゃないですか。


※1:Shelf
http://www.shelf.ne.jp
写真集がメインの書店。銀座線外苑前駅より、徒歩7分。

※2:MOTOKO『京都―The Old and New Guide of Kyoto』(プチグラパブリッシング)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4939102866/

※3:サン・ジョルディの日
http://www.shoten.co.jp/Nisho/WorldBookDay/
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by uchnm | 2005-11-25 00:00 | 本と本屋


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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
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