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「ぼくたちが本と出会うときのこと」 第八回:あなたも占い師に
 先日ある飲み会の席で、占い師はすごい、という話で盛り上がった。といっても、基本的に僕を含めて占いを信じない人間同士で話したことなので、日ごろから占いを信じている人は、そのことをご了解のうえ気にせずに読み飛ばしていただきたいのだけれど、ともあれ占い自体を信じないとしても、占い師という職業の人に占ってもらうという行為は、すごい。ここですごいといっているのは、例えばタロットというツールについて精通しその結果を相手に知らせる、という以外のことだ。

 いかに短時間の会話で人を見抜き、その人が言い当てて欲しいことをズバリと言うか。誤解を恐れずにいえば、占い師の本当の能力は、その百戦錬磨の心理戦の強さにあるのではないか、という話である。実際、有名な占い師の先生に占ってもらった某氏の話によれば、それはいわば一種のエンタテインメントとして完成されている。言ってしまえばツールは何でもいいのだ。相手の表情の変化やしぐさ、何気ない質問に対する答えなどから、相手の傾向を探っていくことこそが、その占い師のプロとしての技なわけである。それは占い師自身の格好からその部屋の内装、タロットを触る手つきから相手を見つめる目つきに至るまで、完璧にしつらえられた演出の中で行われる。細かな演出は、例えばぼくのように疑ってかかっている人間さえもつい喋らせてしまうような力をもつ。偶然に出てきたタロットが持つ意味を解釈していくプロセスを通してそれは探られ、そしていつの間にかついなるほどと信じてしまうような答えに導かれていく。こう考えると、元ホストとかホステスといった占い師がいるのも頷けるし、カウンセラーなんかとも近い。

 こうして占い師について考えていたら、急に「本のソムリエ」という人たちのことが気になった。もちろん資格があるわけではないし、実際に「私は本のソムリエです」と言って仕事をしている人がどれだけいるのかは分からないが(少なくとも検索してみたらたくさん出てきたのだが)、ともかくその「本のソムリエ」という表現それ自体は、いつの間にやらすごく一般的なものになったと思う。本のソムリエを名乗る人は、本を紹介するテレビ番組から個人ブログまで、たくさんいる。本来の意味を考えれば、求められているのはもちろん「その人にあった本を紹介すること」だ。しかしながらどうにも今はまだ、その難しさが軽んじられているような気がしてならない。もちろん一対多のメディアでは仕方のないことなのだけれど、とはいえ大抵の場合それは、ただの良書紹介に留まっているように思う。

 本が好きな人ならば、「良い本」と「悪い本」というのがあるということを知っている。あるいはたくさんの本を読んでいれば、こういう気持ちになる小説はこれ、あそこを舞台にした旅行記ならばこれ、と思い浮かぶことも多くなるだろう。そういう人が紹介する本というのは、確かに面白いかもしれない。しかし、ほんとうに「本のソムリエ」になろうとするならば、そういった知識だけでは片手落ちではないだろうか。少なくともぼくは、まさに占い師のような「人を読む能力」を持っている人に薦められた本を読んでみたいと思う。「ソムリエ」という表現が既に使い古されているから、いっそのこと「本の占い師」と呼び名を変えてもいい。

 迷える人に「あなたが読みたいのはどんな本ですか」といったところで、いつも正しい答えは帰ってこない。「何が読みたいのかも分からないけど、とにかく面白い本が読みたい」というニーズのほうが、むしろ多いくらいではないだろうか。だから「本の占い師」は、例えばその人の性格や最近あった出来事、それによる今の気分、向かっている方向などを、あらゆる手段を尽くして探ることができなければならない。その結果と、膨大な本の知識とをマッチングさせ、一冊の本をその人に薦める。はじめは半信半疑でも、買って帰って読んでみると、むしろ普段は読まないようなタイプの本なのにも関わらず、思わず熱中してしまう。そして例えば、自分がまさに悩んでいたことに対するヒントがそこにある。そうして、感謝する。またあの人に薦められたい、と、そう思う。

 もちろんなろうと思っていきなりなれるものではない。本の知識をつけるだけでも大変なのに、とか、それは占い師の仕事だ、とか言われればそれまでだ。ならばせめて、ちょっと占い師になった気持ちで、お客さんのことを考えてみるのはどうだろう。ぼくはちょっと面白そうなので、占い師になるための本でも探してみようと思っている。


([本]のメルマガvol.226 http://www.honmaga.net/ )
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by uchnm | 2005-09-25 00:00 | 本と本屋


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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
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