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「ぼくたちが本と出会うときのこと」第六回:生活のリズムに乗っかって
 『R25』(リクルート)(※1)のコラムが「電車一駅分で読める長さ」を考えてつくられている、というのは有名な話だが、ところでついに10冊目を迎えた岩波文庫のフリーペーパー『読書のすすめ』(※2)で、角田光代がこんなことを書いている。

 「日常生活にはテンポの速い本のほうが合っている。(中略)ドストエフスキーだとか、トルストイだとか、私ばかりではなく、私の友人はみな一様に学生のころ読んでいる。今、それらを読めと言われても私にはきっと読めない。それは読書力が落ちたのでも読書欲が減少したのでもなくて、単純に、本のリズムと自分の生活リズムが合わないのに違いない。」(「本のリズム、暮らしのテンポ」)

 角田さんの表現を借りれば、さんざん雑誌のターゲットとして難しいといわれた「R25世代」(という言葉はもちろん『R25』以降のものだが)に『R25』が浸透したのは、「本のリズムと生活のリズム」をうまく合致させたからだ、とうことになると思う。「電車に乗っている間しか活字を読む暇がない」ライフスタイルには当然、電車のリズムがフィットするというわけだ。いい換えれば『R25』は、中刷りやら携帯メールやらで十分身についている「電車内で活字を読む」という行為のための基礎体力、そしてそれに費やされている時間を、うまく紙の冊子に落とし込むことに成功した、ともいえるかもしれない。

 これは本に限った話ではなくて、すべてのコンテンツの普及は「いかに生活のリズムと合致するか」ということに大きく影響されると思う。たとえばぼくの生活にはネットサーフィンとメール返信がかなりディープに根付いている(多分そういう人は多いだろうと思う)けれど、このサイトは仕事前にざっと見ておいてこのサイトはまとめ読みとか、このメールはいま数行で書いてしまってこのメールは時間を取ってまとめてきちんと書こうとか、サイトやメールの内容のリズムによって、時間帯も生活のリズムの中になんとなく分けている。逆に、生活のリズムに合致しにくいサイトやメールは、どうしても巡回や返信が難しくなったりしてしまう。ドストエフスキーのようなサイトやトルストイのようなメールというのはそうそうないので、それは日常生活の中で収まるレベルではある。だけれどそこにはやはり「リズムに合うか」という問題が常にあるのだ。

 そう考えると、まさに生活のリズムそれ自体を利用して成功したのが「mixi」(※3)であると言えよう。中でも特徴的な機能である「最終ログインは○分(時間/日)以内」という表示と、自分のページを相手がいつ訪れたか分かる「足あと」は、生活のリズムとサイト利用のリズムを一致させ、そのリズムもコミュニケーションの一部にしてしまった。「mixi中毒」イコール「最終ログインは5分以内」という図式も、いまやだいぶ定着したように思える。

 今年4月オープンした「ほんつな」(※4)はまだ未完成だけれど、うまく普及すればぼくらのネットサーフィンに全くあたらしい「本との出会い」を提供してくれそうなシステムである。久々にいじっていたら、ほぼすべての出版社が自動的にひとつのブログを設定されていて、一冊の本がひとつのエントリとして、新刊情報が日々どんどん更新されていることに気づいた(ひょっとしたらオープン時から既に提供されていたサービスかもしれないが、おそらく5月20日から)。公開直後からだいぶ話題になっていることだけれど、出版社ブログの登録は有料。つまり新刊情報ブログは「ほんつな」側が無料で登録するので、それ以上の場合はお金を払ってください、ということなのだろうと思う(違っていたらごめんなさい)。「はてなダイアリー」(※5)でISBNごとに一冊ずつキーワード化されていることと似ているが、「はてな」のキーワードが共有財産的な位置づけであるのに対し、「ほんつな」のエントリはあくまで出版社別に作られたブログの下にある。「ほんつな」内の個人ブログがある本に言及しようとすると、デフォルトでその本のエントリにトラックバックされるようになっているから(これは「はてな」でいう「含む日記」と同じ効果を持ち得る)、ユーザーの数次第では、出版社側が無視できなくなるほどの力を持つようになる。

 「ほんつな」はもうすぐまだ開始されていないサービス(「MYほんつな蔵書つながり」「MYブログつながりなど)を完成させるだろう。そのとき、それがぼくたちの生活のリズムにうまく合致するものかどうか。そのことがどうも重要になってきそうだ。もちろんブログそれ自体は広く普及しているシステムだが、だからこそわざわざ乗り換えるにはそれなりの理由がいる。その動機は言ってしまえば「便利かどうか」ということかもしれないが、その仕組みを聞いたり実際に使ってみたときに「へえ便利だね」と思うことと、それが生活に溶け込むこととは、やっぱり少し違うようなのである。それはシステム面や内容面あるいはデザイン面の、ちょうどいい軽さということなのかもしれない。

 「Amazon」にせよ「はてな」にせよ「ほんつな」にせよ、それぞれ少しずつ違う、本を媒介にコミュニティを形成する仕組みを内包している。他の雑誌が果たせなくて『R25』が果たせたことや、他のSNSが果たせなくて「mixi」が果たせたこと。狙いであれ偶然であれ、もしそれをそのうちのどれかが果たせるとしたら、本自体をめぐる環境もだいぶ面白いことになりそうだ。

※1 R25
http://r25.jp/
※2 読書のすすめ第10集http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/bun_nonfiction/susume10.html
※3 mixi
http://www.mixi.jp/
※4 ほんつな
http://www.hontsuna.com/
※5 はてなダイアリー
http://d.hatena.ne.jp/

([本]のメルマガvol.215 http://www.honmaga.net/ )
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by uchnm | 2005-06-06 13:00 | 本と本屋


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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
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