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「ぼくたちが本と出会うときのこと」第四回:リブリエ・シャッフルなんてどうでしょう
 つい力が入って、ずっと使っていたUSBメモリ(※1)を割ってしまった。使っている人には分かってもらえると思うけれどこれ、使用中はパソコンからちょこんと飛び出た状態になっている。そこを上からバキッといってしまったのだ。そしてこういうのを依存症というのだろう、いざなくなってみると、とてもじゃないけど仕事にならない。一方、ずっとMP3プレイヤーに手を出す機を逃していたこともあって、「これもナイスタイミングってことで」とか言いながら先日、iPod Shuffle(※2)を買った。

 iPod ShuffleはUSBメモリとしても使用できるMP3プレイヤーで、ちょっと大きめのキーホルダーくらいのサイズしかない。液晶もなくて曲も直線的にしか選択できない(アルバム単位等での階層分けができないため、例えば200曲入っていても1曲ずつしか頭出しできない)ため、メインとなるのはその名の通り「シャッフル」機能である。昔から大抵のオーディオプレイヤーにはついている機能だけれど、そんなにたくさんの人が使っているようには思えなかった。それが、このiPod Shuffleではメインの再生方法となる。

 これが、やってみると楽しい。ジャンルの異なる数枚のアルバムを入れておいて朝、家を出て、再生ボタンを押す。天気のいい日も悪い日も、気分のいい日も悪い日も、一曲目に何が来るのかワクワクする。なんだかまるでこっちの気分を読んでいるかのような選曲をしてくれることも多く、偶然とは知りながらもそのたびに嬉しい。知っているはずの曲が、突然の出会いになんだか違って聴こえてきたりもする。それがぼくにはとても新鮮だった。もちろんUSBメモリとしても何の過不足なく使えるから、ぼくのように今までMP3プレイヤーに手を出せなかった層にもどんどん広がっているのだろうと思う。

 そんなわけで、今日もいつものように電車に乗る。ドアが閉まる。ふと見渡してみるとiPodのあの白いイヤホンをした人が一人、二人、三人……同じ車両の中に何人もいるということに気づく。ところが、残念ながら、LIBRIe(※3)で本を読んでいる人は見当たらない。PDAで読んでいる人も、どうやらいない。携帯を見つめている人の中に、ひょっとしたらメールを打っているのではなく小説を読んでいる人がいるかどうかだ。これはあくまでぼくのある日の出来事であって、地域や時間帯によっては違うのかもしれない。けれども現状、まあ大抵はこんなものではないかと思う。

 もちろん、音楽はカセットテープの時代から機械で聴くものだが本はそうではない、というハンデはある。文字という意味ではポケベルから始まり、いまも携帯が日々進化しているとはいえ、まだまだ長文を読むのには抵抗がある人が多いだろう。けれどそれを差し引いても、たとえば「本好き」「新しもの好き」「機械にも強い」と3拍子揃っていながら電子書籍には手を出していない、という人がぼくの周りだけで何人もいるのは、なんだかおかしい。たしかに一冊の文庫本の手軽さにはまだかなわない気がするし、端末の価格も高い。コンテンツの数はまだまだ足りないし、一方で規格の種類は多すぎる。でもLIBRIeのような専用端末の画面は携帯やPCの画面を見慣れた人にはびっくりするほど読みやすいし、読みかけの続きから読めたり文字の大きさを変えられたり、機能的にも充実している。ある意味ではとっくに、紙の本を越えているとも言えるのに、だ。環境は自ずと整うはずだし、そろそろ爆発してもおかしくないのではないだろうか、あと一歩は何なのだろうか、とつい考えてしまう。

 一方のiPodの世界では、オーディオブック形式で読み込ませたiPod Shuffleを貸す図書館(※4)や、Podcastingで自作を配信する小説家(※5)などが現れはじめた。オーディオブックをこの場合の「本」に含めるかどうかは別として、電子書籍端末はおろか携帯電話でさえ、テキスト読み上げ機能に関しては何年も前から話題になっている(既に辞書などを中心に音声付きの電子書籍はたくさん出ている)。いっそのこと、複数の小説を入れておくと文単位でシャッフルして新しい文脈を生み出してくれる機能なんてどうだろうか。あるいはもう単語単位で拾って音韻を認識して、機械音声のMCがリズムトラックに合わせて延々とライムを踏むとか。ツールの生み出す偶然が新しい語感を生むようになれば「梶井基次郎は混ぜるとヤバイよ」とか「おれはこの前獅子文六がキた」とかいう会話も当たり前になったりするかもしれない。いわばサンプリングやカットアップの要領でDJやヒップホップ好きが本と出会う、とかそういうことになるのだろうが(テキストのカットアップツールとしては「Dr.Burroughs」というのが有名:※6)、作詞補助ツールとしてラディカルなのはもちろん、音楽用として考えればKAOSS PAD(※7)くらいの発明にはなり得るかもしれない。

 これは突飛な話なようだけれど、たとえばこういった何らかの遊びの要素が流行を生み、それが普及への突破口になるのではないかとぼくは思う。ポケットベルがビジネスマンよりも女子高生に広まるなんて、最初はだれも想定していなかった。それはいつしか携帯電話にメールという形で受け継がれ、絵文字という独自の記号には文法さえも生まれ、いまやぼくの親の世代まで平気でそれを使っている。電子書籍端末がiPod並に普及するためには、たとえばそういった、一見関係のない新機能や特定のターゲティングが必要な気がしてならない。それは一部強い批判を受けるかもしれないが、とはいえ今のまま技術革新やサービスの充実を続けたところで、延々一線を越えない気がしているのはぼくだけではないだろう。



※1 USBメモリ
http://e-words.jp/w/USBE383A1E383A2E383AA.html
※2 iPod Shuffle
http://www.apple.com/jp/ipodshuffle/
※3 LIBRIe
http://www.sony.jp/products/Consumer/LIBRIE/
※4 Wired News:『iPod shuffle』でオーディオブックを貸し出す図書館
http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20050307202.html
※5 eBookSpot.jp:世界初? “Podcast”型電子書籍が米国で登場
http://ebookspot.jp/modules/rsnavi/showarticle.php?id=303
※6 Dr.Burroughs
http://ux01.so-net.ne.jp/~ev-net/cutup/
※7 KAOSS PAD
http://www.korg.co.jp/Product/Dance/KP1/
http://www.korg.co.jp/Product/Dance/KP2/
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by uchnm | 2005-04-05 00:00 | 本と本屋


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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
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