第39回:雑誌の定期購読のこと
 最近スタッフが増えて、ずっと1人でやっていたところを2人体制にしたのだけれど、それがきっかけになって、仕事で必要な雑誌をいくつか定期購読するようになった。

 しかし周りの友人数人に聞いてみると、雑誌を定期購読した経験は「NHKの語学テキストなどを少し」といった声があった程度で、想像していたよりも少なかった。いわゆる特定の雑誌を毎号買う「固定客」が減り「特集買い」が増えているという話もよく耳にするが、それでも必ず一定数は「固定客」がいるはずだし、雑誌の制作側としては当然、毎号買ってもらえるような雑誌にしていかなければならない。しかも女性ファッション誌を筆頭に、雑誌を毎回書店で買って帰ることを考えるだけでも結構な荷物になるから、毎号自分の手元に届くことのメリットは大きい。普通に考えると、もっと雑誌の定期購読ということ自体がメジャーなものに、一般化してもいいものではないだろうかという気がしてくる。

 前回も書いた東京国際ブックフェアの会場で、日本雑誌協会発行の『これで雑誌が売れる!(※1)』という冊子をいただいた。色々な書店さんの雑誌を売るための工夫が生の声で、5章に分けられまとめられているものなのだけれど、そこでも「外商、定期購読の拡大」にそのうちの1章が割かれているほか、「定期購読キャンペーン全国トップ2書店の『秘訣』を探る」というコーナーもあった。特にいわゆる「街の本屋」、あまり坪数の大きくない小さな書店が生き残っていく方法のひとつとして、雑誌を定期で店頭取り置きするお客様に定期的に来店してもらうことや、毎号配達に回ることで地域密着型の書店として街全体とコミュニケーションをとっていくことなどが、この小さな冊子の中で多く語られている。

 また、それこそ何十年も昔から、たいていの場合、雑誌本体にも定期購読の案内がついている。送料無料は当たり前、ノベルティがついていたり1号分安かったりなど、各社工夫を凝らしてメリットをつけるようになっている。また、それらの定期購読をインターネット上で受け付けるサービスとして、日本のAmazonが雑誌を取り扱う前からサービスを開始している「Fujisan.co.jp(※2)」は既に老舗の風格を出しているし、日販の子会社が運営している「MagDeli(※3)」も、その母体の流通基盤を生かした独自のサービスを展開している。

 特に「Fujisan.co.jp」は、競合の中を勝ち抜く次の手として、これも2006年と早い段階からデジタル雑誌の販売を始め、『AERA』など大手の雑誌の完全デジタル版の定期購読を多く取扱っている。特に海外在住者など、郵送ではリアルタイムに情報が手に入らない人たちや、必要なページだけプリントアウトすれば冊子よりかさばらなくて済むといった人たちに重宝されているようだ。またいわゆる雑誌に限らず、書店流通はせずデジタルのみで発行される冊子や、無料配布で多くの人に届けたいといった冊子も多くここで流通している(実際、先ほど紹介した『これで雑誌が売れる!』は「Fujisan.co.jp」でも配布されている→※4)。

 また個人や団体が任意で発行している、いわゆるインディペンデントプレスのなかでも、定期購読の新しい試みが始まっている。『スニフティ』(※5)はTOKYOHELLOZというパーティクルーが、「東京堂」という出版局を立ち上げて発行している月刊の漫画雑誌だ。彼らの周辺の、初めて漫画を書くミュージシャンから、プロで活躍するイラストレーターや漫画家まで幅広い人々が自由に漫画を書いていて、その自由さ加減が本当に素晴らしい雑誌なのだけれど、この雑誌のもうひとつ面白いところが「年間会員制」をとっていることだ。見本誌のみは一部の書店で販売しているが、実際の月刊誌はすべて定期購読で郵送され、しかも途中で申し込んだ場合も、初回に創刊号からすべて一度に送られてくる。そのまま一年間、12号目までのお金を先に支払うというシステムだ。

 これが実際に利用してみて、インディペンデントプレスにとって非常に優れたシステムだと思った。特に漫画など連載が多い雑誌の場合は、読者としても最初からまとめて読みたい。一方の制作側も、すべて定期であれば無駄な部数を刷ることがない。また、作りたいと思ってはじめた自分たちの雑誌を作り続けるために、先にお金を受け取っている定期購読者がいるということは程よいプレッシャーになり、1~2冊作って飽きてきたから終わり、という風にならず、モチベーションの維持にもつながる。かといって、最初に受け取る金額は創刊から12冊分までと決まっているから、終わりが見えないというわけでもない。

 こういったインディペンデントプレスを扱うショップもだいぶ増えてはいるが、作られる印刷物の数はそれ以上に増えている。発行者がそれぞれのショップに一店ずつ扱ってもらえるように交渉して回り、そのうちのいくつかで扱ってもらえたとしても、そこから毎回納品し回収し請求する、というサイクルを行い続けるのは結構な手間だ。会員は基本的にウェブを中心として、身の回りから口コミで広がる。もちろん見本誌を手に取った読者との偶然の出会いもある。自分たちで冊子を定期刊行したい場合、この『スニフティ』のモデルはひとつの答えであるといえそうである。

 街の書店の活性化に、デジタル雑誌に、インディペンデントプレスに。定期購読は、ここのところすこし熱気を増してきているように思う。徐々に広告収入に頼れなくなっていく雑誌をなくさないために、より定期購読を一般的なものにしていくための工夫を、ぼくももう少し考えてみたいと思う。


※1:私はこうして雑誌売上を伸ばしました 日本雑誌協会「雑誌売り伸ばしプロジェクト」公式ブログ
http://j-magazine.weblogs.jp/blog/

※2:Fujisan.co.jp
http://www.fujisan.co.jp/

※3:MagDeli
http://www.magdeli.jp/

※4:『これで雑誌が売れる!』
http://www.fujisan.co.jp/magazine/1281682618

※5:スニフティ
http://www.tokyohelloz.com/snifty.html
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by uchnm | 2008-08-25 00:00 | 本と本屋
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