第37回:本と旅とプロダクト
 そんなに多くはないけれど、本特集をやるとか、本がらみの企画をやるとかで、色々な雑誌からときどき、原稿の依頼をいただく。基本的にありがたく引き受けるのだけれど、それがなぜだか夏前のこの時期に多くて、今月発売の雑誌3誌にそれぞれちょっとした原稿を書いた。去年は7月発売の雑誌2誌に書いていたようなので、今年はピークが1ヶ月早まっていることになる。夏が近づくと本に注目したくなるのだろうか、それは、夏休みがやってくるからだろうか?

 先月のこの連載は「現代美術が本をプロダクトとして浮き彫りにする」(※1)というタイトルだったけれど、実は偶然にも、3誌のうち2誌が「本/プロダクト」という内容の原稿依頼だった。それぞれ『スタジオボイス』(※2)と『ハニマグ』(※3)なのだけれど、面白いことに、前者は「本」特集の中で「プロダクトとしての本」という切り口で、後者は「プロダクト」特集の中で「本というプロダクト」という切り口で、それぞれ書いてほしいという依頼だったのである。そしてもう1誌である『エココロ』(※4)は、「旅」特集の中での「本」。旅に出るときに読みたい本についてのコラムを書いたほか、特集の扉に載せる文章の引用もした。

 もちろん『スタジオボイス』も楽しく書かせていただいたのだけれど、どちらかといえば『ハニマグ』や『エココロ』のように、「本」以外の切り口の特集の中で「本」について書くことを要求されるほうが、個人的には性に合っている。まさにこの連載や今回の『スタジオボイス』のように、本というメディアそのものに関わることを書かせてもらえるのであればともかく、いわゆる本好きの人に向けてさらなる知識や情報を知らせるような文章は、もっと得意な人がぼくの他に山ほどいる。それならば、それほど本好きでもない人が読んでいる雑誌に、本への興味を持ってもらうような文章を書くことのほうが、自分には向いているし、やりたいと思うからだ。

 それぞれの内容については最新号を買って読んでいただくとして、同じ内容を書くわけにもいかないので関連させるというか、無理やりに2つを同時に考えようとしてみると、「本」は「旅」において特に「プロダクト」であるということを強く意識させるものだ、ということに気がつく。なんといっても旅の荷物は、本以外にもたくさんある。荷物はできるだけ軽いほうがいいし、旅先のどこでも、気軽に読める形態のほうがいい。

 それゆえ旅には、日本独自の素晴らしいフォーマットである文庫本が、長年親しまれてきた。「かばんの中には文庫本」というmixiコミュニティに3,500人を超える人がいるくらいだ。これは数多ある本関連のコミュニティの中でもかなり多いほうで、それだけ「持ち歩く」ということと切り離せない関係にある。

 他方ビジネスの世界でも、ひとつ前の『東洋経済』も読書特集で、そこに見逃せない記事があった。「ティム・ドレイバー氏はソニーの電子書籍端末『リーダー』(日本名『リブリエ』)を海外出張時に携える。『70冊分はダウンロードしているよ』。(中略)出張の多いビジネスエズセクティブにとって、電子書籍端末は半ば必携のアイテムだ」(※5)。『米国の最新読書事情』と題されたこのコラムはカリフォルニア在住の日本人ライターによって書かれたもので、どのくらい「必携」なのかはさておき、少なくとも日本より格段に専用端末がメジャーであることは間違いなさそうだ。本文中にも触れられているが、米国のハードカバーは大きくて重たい。その点、日本のビジネスマンは新書というフォーマットにだいぶ恵まれているともいえる。

 旅先で読む本は、もちろん内容も重要だ。上のビジネスマンのように電子書籍端末を持ち歩かない限り、たくさん持っていくわけないはいかないから、吟味しなければいけない。そこで、できるだけ面白い読書をする方法のひとつは、その旅先が舞台として出てくる小説を持って行くことだ。これは『エココロ』でも紹介させてもらったけれど、その小説の舞台をマッピングするウェブサービス「honnobutai(ホンノブタイ)」(※6)を、実はつくってしまった。これはぼく自身書いたことを忘れていて、あとで気がついたのけれど、1年ほど前にこの連載に書いた文章(※7)の後半で妄想していたものにきわめて近い。まだ不十分なところだらけだけれど一応動いているし、手前味噌ながらはっきりいって面白いので、ぜひ試してみてください。


※1:「ぼくたちが本と出会うときのこと」第36回:現代美術が本をプロダクトとして浮き彫りにする
http://uchnm.exblog.jp/8661562/

※2:『STUDIO VOICE(スタジオボイス)』2008年07月号 特集:本は消えない!
http://www.studiovoice.jp/studio-voice/back-issue/2008/07/

※3:『honeyee.mag(ハニマグ)』vol.5 “PRODUCT”
http://www.honeyee.com/news/2008/fashion/132/index.html

※4:『ecocolo(エココロ)』No.28「週末美人旅」
http://www.ecocolo.com/editorial/modules/pukiwiki/514.html

※5:『週刊東洋経済』2008 6/21 「最強の読書術」
http://www.toyokeizai.co.jp/mag/toyo/2008/0621/index.html

※6:honnobutai -β 本の舞台をマッピング
http://honnobutai.org

※7:「ぼくたちが本と出会うときのこと」第28回:ブック検索に大賛成する
http://uchnm.exblog.jp/7186469/
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by uchnm | 2008-06-26 14:17 | 本と本屋
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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
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