第35回:本をどう作り、どう売るのかという終わらない話
 なんだかあらためて言うのも変だけれど、いまの日本はそんなに景気のいいものではない。少なくとも本に関わる仕事をしている人で「最近すごく景気がいいよ」という人が少数派であることは、残念ながらおそらく間違いないだろう。インターネットが生まれ携帯電話が育ち、人もコンテンツも変わった。いつか遠くの話ではなく、すでにここまでやってきていて、はじまってしまっている未来、本をどう作り、どう売るのか。誰もが、その時代の変わり目が来ていると感じている。

 八丁堀のOtto Mainzheim Galleryでの月1回のトークショーシリーズ「ぼくたちと本とが変わるときの話」(※1)の第2回目には、取次大手である日販にいながら、「経営戦略室デジタルコンテンツチーム・プロデューサー」という肩書きで、携帯コンテンツの配信を行っている常盤敬介くんと、「出版プロデュース」という耳慣れないビジネスを手がけているエリエス・ブック・コンサルティング(※2)という会社に勤める古屋荘太くんの2人をゲストに呼んだ。彼らはどちらも、本や出版にまつわるその「時代の変わり目」に呼応して生まれた比較的新しいジャンルの仕事で生計を立てていて、比較的景気がいい。そしてぼくらは偶然にも、3人ともまったくの同学年なのだ。

 常盤くんのところで特に好調なのは、いわゆるボーイズラブのコミックだという。携帯コンテンツというとなぜか電車などの移動中に楽しむものというイメージがあるが、実際は寝る前の既にベッドに入った時間によく読まれているそうだ。本は夜、部屋の電気を消すと読めないが、携帯は真っ暗な状態でもバックライトで読める。これらのコンテンツは女性を中心に、結構な数売れているらしい。

 古屋くんのところは主にいわゆるビジネス書のプロデュースを行う会社で、これから著者になろうとする人から既に何冊も本を書いている人まで、その著者のブランド構築から出版戦略、マーケティングまでをトータルで行い、同時に出版社への企画・PR・マーケティングのアドバイス・支援も行う。社長の土井英司氏はAmazon.co.jpの立ち上げに参画した方で、有名なビジネス書のメールマガジン『ビジネスブックマラソン』(※3)の著者でもある。

 最初に挙がった印象的なトピックは、「本はどんどんわかりやすくなっている」ということ。昔から入門書というカテゴリは存在するけれど、それらはいかに実践的にすぐ使える知識を効率的にわかりやすく伝えるか、というベクトルにどんどん向かっている。入門書としてのクオリティが上がっていくのはいいけれど、その先に関連するテーマのよりアカデミックな本があるというようなとき、そこに読者はたどり着こうとしないし、たどり着きやすいようになっていない。例えばAmazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」にその本が出てこない。なんとなく「雲」のようなものは見えるけれど、登るべき「山」が見えないのだ。「この本を読んだ人は次この本を読んだらいいよ」という「山」をつくることを人的にやっていかない限り、いずれわかりやすい本ばかりが棚をすべて占領していくことになってしまう。

 次に出た話は「本はどんどんモノになっていく」ということ。いかに売り場でプロダクトとしての魅力を放つかということが大きな課題になっていくだろう、という話から、日本経営合理化協会出版局(※4)の豪華な高額ビジネス書の話題や、映画のように製作委員会方式をとり、書店、取次、出版社、編プロその他で共同して本づくりをしていくのはどうか、という話などに発展した。ぼくがアパレルとのコラボレーションでいま進めている、別装本のプロジェクトの話もした。

 最後に話したのは「書店という枠組みがもはや機能しなくなっているのではないか」ということ。セレクト系の書店に行くとき、ぼくたちはすでに従来の書店に行くのとは違う感覚でその店に向かっている。書店という枠組みの中で本がセレクトされているというタイプのお店には限界があって、ぼくらはこれから本にまつわる体験ごとコーディネイトしていかなければいけない。本屋でないところで本を売ること、本屋と呼ばれるところで本でないものを売ること。どちらも既にはじまっているけれど、そこにはまだまだ可能性があるし、既にある膨大なコンテンツをどう見せていくのかというところにはまだまだ専門家が足りない。

 ぼくたちの話はいろいろな方向に飛んでいったけれど、「本をどう作り、どう売るのか」という話に終始した。上の世代の人たちに今までのやり方を教わりながら、ぼくたちの世代がどうそれをアレンジしていくのか。とても2時間でカタがつくような話ではないし、まだまだ先は長そうだ。

※1:MUSEUM OF TRAVEL
http://mot8.exblog.jp/

※2:エリエス・ブック・コンサルティング
http://eliesbook.co.jp/

※3:ビジネスブックマラソン
http://eliesbook.co.jp/bbm

※4:日本経営合理化協会出版局
http://www.jmca.net/book.html
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by uchnm | 2008-04-25 00:00 | 本と本屋
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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
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