第34回:インターネット時代の人文書のこと
八丁堀のOtto Mainzheim Galleryで、勝手にこの連載と姉妹っぽいタイトルをつけた月1回のトークショーシリーズ、「ぼくたちと本とが変わるときの話」(※1)をはじめた。

「本は、いつか本当になくなってしまうのか?ぼくは、決してなくなりはしないけれど、既に変わりはじめているし、きっともっと変わっていくと思っています。『ぼくたちと本とが変わるときの話』は、本を中心に、広くメディアとコンテンツが変わっていく様について、毎回ジャンルの異なるゲストを招いて話をするシリーズです。」なんとも曖昧なこういう説明文をつけさせていただき、初回の3月5日は、月曜社の小林浩氏(※2)をゲストに迎えた。

前半は「人文書とデジタルコンテンツ」をテーマに、ぼくから小林氏に伺いたいこととして「ケータイ小説がこれだけ流行している今、ケータイ人文書はなぜないのか」「もし本屋から人文書がなくなってしまうとしたら、人文学そのものがなくなってしまうのではないか」というような問いを掲げることからスタートした。

「書く場所の不在」を訴える人々が近年顕著に増え、『批評空間』(※3)の終刊以降、現代思想系の雑誌の新創刊の話がいたるところで起こっているという。しかし多くの人にその思想が伝播するということを考えたとき、紙よりもインターネットのほうが色々な戦略が立てられるのではないか。学会の紀要などの、紙ベースでの媒体に書くことで初めて成果として認められるという慣習がアカデミズム内部で色濃く残っているのが、「書く場所」を広げていくことの障害になっているのではないか。

そんななか、自ら物販も行うサイトやCD-ROMでの発表などを積極的に行う東浩紀氏(※4)の存在やパブリック・ジャーナリストの存在、最近だと「文化系トークラジオLife」(※5)の影響力が書店でも大きくなってきていることなど、デジタルデータとしての人文コンテンツの流通は少しずつ広がってきてもいる。

次に、ちょうどタイムリーだったmixiの規約改訂(※6)に関する話題から、著作権の問題がこれだけシビアになったのもインターネットの出現以降であるということ、復刊が待ち望まれる丹生谷貴志『光の国』のこと、コピーレフトされたジジェクの『いまだ妖怪は徘徊している』のことなどに触れた。特に販売部数の多くない人文系の書籍において印税で生活できる著者が多くない以上、クリエイティヴ・コモンズ・ライセンス(※7)などを利用して広く伝播させることのほうが、価値があるとも言えるのではないだろうか、という話をした。

目立った「ケータイ人文書」は今のところ存在しない。しかし既に何人もの小説家がチャレンジしているように、既に多くの著作などをもつ批評家や社会学者などの中には、多くの人に読んでもらうためのひとつのフォーマットとしての「ケータイ小説」的なアプローチを検討している人は既にいるかもしれない。「書く場所」を確保するために新しい雑誌を作ることに大きな労力を割き、結果あまり売れ行きが上がらずに数号で廃刊させてしまうよりも、そういった実験をもっと行っていくべきだし、そういった発想をする著者や編集者のつくったものを読んでみたいと思う。

そうした多様な実験が行われていくとき、仮に本屋から人文書の棚が小さくなっていったとしても、人文学そのものはなくならない。それどころか結果として、人文コンテンツへの人々の関心を喚起できれば、本屋における人文書の地位を向上させることさえ可能かもしれない。

後半は会場から、20年ほど前に浅羽通明氏の「見えない大学本舗」などがゲリラ的に書店の本に小冊子のようなものを挟み込んでいたという話を伺ったりしつつ、小林氏から「高遠本の家」(※8)や「Housing Works Used Book Cafe」(※9)を話題として提供していただき、本屋の未来の話や、断裁される本を素材に建築や美術作品をつくる可能性の話、本屋を取次主導で夜はバーにするべしという話などをさせていただいた。書籍のボツ企画案だけをまとめて公開するという、小林氏のアイデアもとても興味深く、話は尽きなかった。

こういった本や本屋の未来についての話は、例えばぼくが生まれてさえいない昔にも、その都度話されていたはずのことである。しかしコンテンツが流通するためのネットワークがこれだけ新たに普及した時代というのは今までなかったはずだ。また小林氏曰く、これほど多くの本が断裁され処分された時代というのも未だかつてなかった。まさに今、本当に変わっていかなければいけない。このトークセッションはまさにそのために、しばらく続く予定である。

※1:MUSEUM OF TRAVEL/CAMP
http://mot8.exblog.jp/

※2:ウラゲツ☆ブログ
http://urag.exblog.jp/

※3:批評空間(雑誌)
http://www.kojinkaratani.com/criticalspace/old/

※4:東浩紀
http://www.hirokiazuma.com/

※5:文化系トークラジオ Life
http://www.tbsradio.jp/life/

※6:mixi規約改定問題 「ユーザーが著作者の時代」にまた繰り返す大騒動(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/05/news082.html

※7:「ぼくたちが本と出会うときのこと」第33回:コンテンツも、決まりも変わる
http://uchnm.exblog.jp/8184587/

※8:高遠本の家
http://www.ne.jp/asahi/bookcafe/heartland/honnoie/

※9:Housing Works Used Book Cafe
http://www.housingworks.org/usedbookcafe/


◎上記の「ぼくたちと本とが変わるときの話」、第2回やります。よろしければぜひ皆様いらしてください。
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ぼくたちと本とが変わるときの話 第2回
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内沼晋太郎(numabooks 代表/book pick orchestra 発起人)

<第2回ゲスト>
常盤敬介(日本出版販売株式会社 経営戦略室デジタルコンテンツチーム・プロデューサー)
古屋荘太(有限会社エリエス・ブック・コンサルティング、出版プロデュース事業部・出版マーケットレポート編集長)

■本は、いつか本当になくなってしまうのか?
■ぼくは、決してなくなりはしないけれど、既に変わりはじめているし、きっともっと変わっていくと思っています。
■「ぼくたちと本とが変わるときの話」は、本を中心に、広くメディアとコンテンツが変わっていく様について、毎回ジャンルの異なるゲストを招いて話をするシリーズです。
■今回はぼくと同世代で、取次大手の日販で取次でケータイコンテンツの配信を手がけている常盤氏と、出版プロデュースという比較的新しいジャンルの会社エリエス・ブック・コンサルティングに勤めている古屋氏という、いわゆる既存の出版とは異なる角度から出版業界に関わっている2人をゲストにお迎えして、あれこれ話します。

日時:2008年4月2日(水)20:00~22:00
定員:30人(予約制) 参加費:1,000円(1ドリンク付)

会場:Otto Mainzheim Gallery
http://mot8.exblog.jp/7239803/

主催:MUSEUM OF TRAVEL
http://mot8.exblog.jp/

予約方法:メールのタイトルを「キャンプ予約」とし、イベント名/氏名/メールアドレス/参加人数を明記したメールを下記のアドレスまでお送りください。24時間以内に予約確認のメールが届きます。予約をキャンセルされる場合は事前にご連絡をいただると助かります。museumoftravel(at)gmail.com ※「(at)」を「@」に変更してください。
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by uchnm | 2008-03-25 13:56 | 本と本屋
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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
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