「ブックオカ」(※1)という、福岡で行われる本のイベントの中の一コンテンツ「ブックオカアカデミー」(※2)に、大変光栄ながら講師として呼んでいただいた。10月27日なのでこの連載の配信日の2日後のことなのだけれど、そこでぼくに与えられたテーマは「本と遊ぶ」。自分でいうのも変だけれどまさにぼくにピッタリのテーマで、その準備をしている過程であらためていろいろと考えさせられた(ちなみにもし福岡でそのセッションに参加される予定の方がいたら、以下の文章は当日お話しする内容と少し重なる部分が出てくると思うので、予習的に読んでいただくのもよし、少しでもネタバレ的なことを避けて新鮮な気分でお話を聞いていただきたいのであれば読むのはやめて、あとで復習的に読んでいただくのもよし、かと思います)。
ぼくが最初になんとなく考えたのは、「音楽と遊ぶ」ということについてだ。まず大前提として普通は「聴く」のだけど、それもひとりの部屋でヘッドホンで聴くのと、みんなでクラブで大音量で聴くのとはまるで違っていて、それぞれに「遊び」かたが無数にある。あわせて「踊る」のもよし「歌う」のもよし、もちろん「弾く」のもいいし、「めかくしジュークボックス」のように曲を当てるクイズとか、いわゆる「遊び」らしい「遊び」もたくさん考えられるだろう。部屋から街頭まであらゆる場所にプレイヤーがあり勝手に流れ、クラブやカフェをはじめとしてあらゆる場所にDJブースがあり、それぞれの環境で音楽同士が「ミックス」され新しいものが生み出されていく。もちろん作詞、作曲する側にまわることも、演奏する側にまわることもできる。カラオケボックスから練習スタジオまであらゆる施設が街中に存在するし、専門店から洋服屋の隅までたくさんのショップが存在する。買う側も、その音楽的な中身だけでなくジャケットのデザインで買ったり、マニアになれば初回プレスかどうかとかどの国で生産されたものかどうかとか、そういうことにもこだわる……などと延々と列挙してもキリがないのでこのあたりでやめておくけれど、それぞれの環境で、さまざまな「遊び」ができそうだ。 「音楽」でできることは、たいてい「本」にも応用できるだろう。上に挙げたことに対してそれぞれひとつひとつ、「本」の場合を当てはめて考えてみれば、まったく同様のこともあるだろうし、一方で普段はあまり行われないことのアイデアも生まれるだろう(実際、ぼくのアイデアはこういう方法によって生まれていることも多い)。例えば「本」でDJのような作業を行う、ということについて真剣に考えるだけでも、いろんな新しい「遊ぶ」ためのアイデアが思いつきそうだ。しかし、こうして「音楽」に当てはめてひとつひとつ全部思い浮かべただけでは、ぼくはまだまだ、なんだか物足りない。「本」は「音楽」に比べて、もっといろんな形で「遊ぶ」ことができるものではないだろうか、という気がしてくるのだ。 その理由はいくつもあるけれど、まず1つ目として、「本」はプレイヤーを必要としない、ということが挙げられる。「音楽」のプレイヤーも本当にたくさんあるし、たいていの場所にはまず持ち込むことができるが、しかし「いつでもどこでも」という意味においては、ただそれ自体があればよい「本」にはまるでかなわない。買ったその場からすぐに「遊ぶ」ことができるから、以前にこの連載で紹介した「エルビス文庫」(※3)のように、旅をしながら表紙をコラージュして交換していく、といったことができる。 2つ目の理由は、モノとしての性質である。それが紙でできていて、立方体であるということだ。紙でできているから、直接メモを書き込んだり、折ったりすることができるし(これは「音楽」でいう「リミックス」のような行為を、誰もが簡単にやっているということと同じだ)、場合によっては破ったり、絵を描いたり、鼻をかむことだってできる。紙質のことと、すでに印刷されている内容があることを除けば、他の紙製のものにできる「遊び」は何でもできるのである。そして形も、それなりに体積のある立方体であるから、並べたり積んだりすることで、ブロックのような感覚で素材にして「遊ぶ」こともできる。たとえば古雑誌を束ねてスツールを作ったりすることができる(※4)し、そういえば小学生のころ、『週刊少年ジャンプ』を積み重ねてベッドを作るという話をどこかで読んだような記憶がある。 そして3つ目の理由に「本」は安い、ということが挙げられる。ブックオフで100円から買えるし、古本屋によっては軒先のワゴンで1冊20円の文庫本を売っていたりする。新品のものを買ったところで、文庫本なら数百円だ。「音楽」はデータで流通してしまいやすいというのはあるけれど、CDやレコードといったモノはここまで安くない。価格が高いものだと「遊ぶ」にしても、手を加えたりすることにはちょっと躊躇してしまうだろう。「本」ならば大量に用意して、それを素材にして作品をつくったりする(※5)ことが比較的気軽にできる。 このように考えると、ぼくらはまだまだいろんなやり方で「本と遊ぶ」ことができる。そういえば最近、在庫僅少本を期限付きで割引販売するサイト「ブックハウス神保町.com」(※6)が本格オープンしたが、それを紹介する記事には「書店で売れ残って出版社に返品される書籍は年間5億冊を超え、そのうち約2割の1億冊が断裁処分になり損失は820億円に及ぶ。断裁するぐらいなら値引きしてでも読者に届けようという発想だ」(※7)と書かれていた。断裁される本は、しかしそれでも絶対になくなりはしない。断裁になる前にほんの一部でもいいから、ぼくに任せてもらえないだろうかとずっと昔から思っていたのだけど、その気持ちがまた再燃してきた。 ※1:ブックオカ http://www.bookuoka.com/ ※2:ブックオカアカデミー http://www.bookuoka.com/2007/category_33/item_145.html ※3:「ぼくたちが本と出会うときのこと」第23回:本を交換する http://uchnm.exblog.jp/6541484/ ※4:「ぼくたちが本と出会うときのこと」第19回:あるテーマを特集した古雑誌を集めてみる http://uchnm.exblog.jp/5926729/ ※5:「ぼくたちが本と出会うときのこと」第14回:現代美術で本を考える http://uchnm.exblog.jp/4300067/ ※6:ブックハウス神保町.com 在庫僅少本・バーゲンブック ショッピングサイト http://www.bh-jinbocho.com/ ※7:asahi.com:「売れ残った本」半額に 出版社17社、ネットで本格販売 http://book.asahi.com/news/TKY200710070036.html
by uchnm
| 2007-10-25 00:00
| 本と本屋
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■■news■■この連載の他、大量の書き下ろし原稿を含む、内沼晋太郎初の単著が発売になりました!詳細はこちら。
「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。 →mixi 以前の記事
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