明治通り沿い、渋谷付近を歩いていたら、アパレルショップのショーウィンドウに「本のようなもの」がディスプレイされているのを発見した。しかも通りの同じ側の、ほんの短い距離の間にある2つのショップで、同じ時期に(1週間程度の間隔をあけて確認したので、重なっていたのかどうかはわからないけれど)両方で「本のようなもの」が使われていた。
ひとつのショップでは、本棚を模した大きな壁のようなものが作られ、その前に洋服を着たマネキンが飾られていた。遠くから眺めてもよくわからないけれど、近くで見ると、それは明らかに本物の本ではなかった。一冊の本の背表紙のようなものがデザインされ、それらの同じものが何十冊、何百冊分も、まるで施井泰平(※1)の作品のように、壁に貼りつくようにして並んでいた(というか、そういう巨大な壁が造作されていた)のだったと思う。 もうひとつのショップは、一見普通の、アクセサリーがディスプレイされているウィンドウだった。だがよく見ると、百科事典のような本が床に何冊か置いてあり、テーブルの上にも何冊か乗っていて、それにかぶさるようにしてアクセサリーが飾られている。さらに近づいて見てみると、その百科事典のように見えていた本も実際は本物ではなく、本のような形をした作り物であった。 そして今日、この文章を書いているつい先ほど、ちょっと時間が空いたのでラフォーレのとあるショップに入った。まだまだ暑いのに秋冬物ばかりの店内はこの時期いつも違和感があるな、とかぼんやり思いながら物色していると、台の上に置いてあったタイやベルトの下に、また本があった。表紙に何も書いていない、まっさらのスカイブルーのそいつは、手に取ったわけではないが紙のようだったので、どこかの何かの束見本か、もしくは書籍風につくられたノートのようなものだろう。 ちょっと歩いているだけでこんな風に見つかるのだから、どうやら最近のアパレルショップで、本を模したものをつくりそれをディスプレイにするのが流行しているらしいことは間違いない。二度も「発見した」と書いているのであらためて言うまでもないけれども、場所としてはぼくが仕事をさせてもらっているTOKYO HIPSTERS CLUBから近いが、これらはひとつもぼくの仕事ではない。 この連載でもいままで何度か触れたけれど、ぼくはブックコーディネイターという肩書きで、セレクトショップやカフェ、ロビーや待合室などで、販売用や閲覧用に並べる本をセレクトするのを主な仕事にしている。それでたまたまアパレルの業界紙である繊研新聞に掲載されたとき、そういう「ディスプレイとしての本」が流行しているという主旨の原稿で、つい数ヶ月前、一緒に紹介されたことがあった。 もちろんそれ自体はまったくもって喜ばしいことだし、ぼくももし依頼があれば喜んでディスプレイ用の本もセレクトする。しかしぼくが気になっているのは、先に挙げたぼくが見つけた例がことごとく本物の本ではなく「本らしきもの」であったことだ。あえて制作費をかけて本物の本ではなく「本らしきもの」をわざわざ作って使うのには、相応の理由があるはずだからである。 いきなり結論を言ってしまえば、本をディスプレイに使う理由は、簡単にいうと「知的な」「思想のある」といったイメージをつけるためである。そして本物の本を使うと、その本が世の中に対して持っている文脈が良くも悪くも見えてしまう。その文脈がつくのを避けるために、敢えて「本らしきもの」をつくるのである。特定のある本を選んでしまうと、ブランド全体に対して、その本が持つイメージが影響してしまうのだ。 しかしぼくがアパレルショップに対して提案しているのはその真逆の発想で、本の売り場をつくることによって、その本が持つ文脈とそれによってブランドが人々に与える影響力を利用して、ブランドの思想を的確に伝えていきましょう、というものなのである。過去にも書いているのでその内容を詳しく繰り返すことはしないが、しかしこういう「本らしきもの」を見ると、ちゃんと選べばプラスに働くのにな、これじゃ逆効果だな、と勿体ない気持ちになる。 「このショップでこの服ならばこの本だろう」というセレクトをするのは、自分でいうのもなんだがもちろん難しい。しかしかといって、なんとなく「知的な」ニュアンスを出すために利用されている「イメージとしての本」は、ちょっとアンテナの高い客には残念ながらすぐにその浅はかさがわかってしまう。偽物はバレてしまうのだ。だからぼくはこうしてあらゆるショーウィンドウに並べられた「本らしきもの」を見るたびに、きちんとセレクトしたい欲にかられてしまう。「イメージとしての本」がせっかく必要とされているのだから、今こそ本物の「本」の面白さを伝えるべきタイミングなのだ。 ※1:施井泰平 http://www.yukariart-contemporary.com/j/Taihei_Shii/01.html by uchnm | 2007-08-25 00:00 | 本と本屋
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