第22回:カフェに本棚をつくる
 とある老舗ブックカフェのオーナーから昔「ブックカフェは、たいていどうしても本屋かカフェかどちらかになってしまう」というお話を伺ったことがある。最初は「ブックカフェ」として、本と珈琲の両方ともをメインの商品として扱い、その相乗効果を生かした経営を志していても、やがて「珈琲も出せる本屋」というふうになるか、「本も買えるカフェ」あるいは「本も読めるカフェ」というふうになるか、本屋かカフェのどちらかにメインが決まり、それとして経営されてしまいがちだ、ということだ。

 しかしぼくは「珈琲も出せる本屋」であれ「本も買えるカフェ」であれ、それぞれに面白くなる要素があり、当然まだまだ可能性があると思っている。ぼくはここ2ヶ月くらいで、立て続けに4つほどのスペースの本棚のオープンに関わっているのだが、そのうちの2つがカフェである(ちなみに残りはひとつがアパレル、ひとつは医療機関だ)。そしてひとつは「珈琲も出せる本屋」であり、もうひとつは「本も買えるカフェ」に、なろうとしている。

 ひとつは東京・麹町にある A|Z books&cafe(※1)というブックカフェと、ぼくが仲間とやっている本好き団体 book pick orchestra(※2)とのコラボレーションである。 A|Z books&cafeは2000年12月にオープンした、それこそ老舗といってもいいブックカフェであるが、ビジネス街のど真ん中にあるため、営業は平日のみ。そこで、空いている土日をお借りして、ぼくらが横浜・馬車道でやっていた[encounter.](※3)を新たにアレンジし、運営させていただくことになったのだ。いわば平日は「本の読めるカフェ」で、土日だけ「珈琲も出せる本屋」に変身するというわけである。

 [encounter.]の内容については色々なところで書いてきたので省くけれども、もうひとつの東京・恵比寿にある kukui cafe(※4)というカフェバーに関しては、もともとカフェとして営業しているところを「本も買えるカフェ」に変身させるという、ぼくにとってはそれまでやったことのない課題であった。そこには既に小さな本棚があって、もともとは店主の私物の本が入っていたり、展示に使ったりしていた。そこで本を売ってみたい、と店主から連絡をいただいたのが昨年の2月だから、結局オープンまでに1年かかってしまった計算になる。カフェの小さな本棚で、果たしてどんな本を売るのがベストなのかということ。なかなか、答えが出なかった。

 まずつまづいたのは、なぜその本を置くのか、という理由づけだ。アパレルブランドの場合であれば、ブランドの伝えたいコンセプトや思想が(ステイトメントとして明確に共有されているかどうかは別として)はっきりと存在しているので、それに沿うことができる。しかしカフェで、しかも既に人くくりにはできない色々なタイプの人が来ている場合、沿うべきコンセプトなり、合わせるべきセグメントなりを設定できない。店側の思いや「こういう本棚にしたい」というアイデアも、色々に変化していた。

 そしてもうひとつの問題は、なぜそこでその本を買うのか、ということである。本は、普通は本屋で売っているものだ。お客さんがそこで購入に至るまでのストーリーを、きちんと想定しないといけない。どういうきっかけで手にとるのか。パラパラとめくったそれを、なぜわざわざそこで買おうと思うのか。これも「そこで買いたい」と思わせるブランドがあればいいのだが、そうでない限り、普通のものを普通に売っていてはなかなか売りにくい。つまり「面白そう」と思ってもらうきっかけと、「ここでしか買えない」というレア感の両方を、演出しなければならない。

 そこで「カンバセーション」「マスターピース」「リトルプレスサロン」という、3つのコーナー中心に構成することにした。今回の最も中心的なアイデアである「カンバセーション」は、古本の小説の会話文の引用し、それを背表紙にプリントしたオリジナルのカバーをかけたものである。それらが棚に並ぶと、それはひと続きの会話文のように見え、偶然の文脈がその棚に生まれるのだ。もちろん自由に閲覧できるので、お客さんが並び替えればその文脈も変わるし、売れて新しいものを補充した際にも再構築される。もともと kukui cafe はお客さん同士が自然と会話し友達になれるようなサロン的なカフェバーなので、「会話」がテーマとなった棚は内装としてもふさわしい。

 「マスターピース」は、numabooks(※5)がアーティストとのコラボレーションで制作する、ごく小部数の出版物のような、作品のようなシリーズである。それらは一定期間その棚に展示され、オークションで販売される。そのアーティストの多くは kukui cafe で過去に展覧会をやったアーティストであり、作家本人もたまに来店する。「リトルプレスサロン」はその名の通り取次の流通に乗っていないリトルプレスを扱うのだが、単にそれだけではなく、カフェという場を利用して、そのリトルプレスの作り手と受け手がコミュニケーションできるような場と仕掛けをつくる。具体的には、作り手のトークショーを企画したり、ノートを用意してお客さんのコメントを集めたりする。

 これら3つのコーナーは全て、カフェという場である必然性、面白がってもらうだけの企画性、そしてここでしか買えないというレア感を演出したもので、いまぼくが考え得る限り、最も「本も買えるカフェ」にふさわしい本棚だと思っている。ちなみに麹町の[encounter.]は1月末から知人限定でテストオープンして3~4月に公式オープン、恵比寿 kukui cafe の numabooks は2月10日にオープニングパーティをやるので、よろしければぜひいらしてください。

※1:A|Z books&cafe
http://www.npv.co.jp/

※2:book pick orchestra
http://www.bookpickorchestra.com

※3:book room[encounter.]
http://www.super-jp.com/bookpick/encounter/

※4:kukui cafe
http://kukuicafe.jp

※5:numabooks
http://numabooks.com
[PR]
by uchnm | 2007-01-25 23:31 | 本と本屋
<< 第23回:本を交換する 第20回:本は一冊もないけれど... >>


はじめての方へ
■■news■■この連載の他、大量の書き下ろし原稿を含む、内沼晋太郎初の単著が発売になりました!詳細はこちら

「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。
mixi
以前の記事
フォロー中のブログ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧