なにしろこれで終わりにしようというのだ。せっかくならば何かまとめらしく、気の利いたことを書かなければいけないと思って、とりあえず連載名をタイトルに冠してみるところからはじめてみたけれど、さっきから何度も書いては消してを繰り返すだけで、どんどん時間が過ぎていく。この連載の間にぼくは24歳から28歳になり来月には29歳になろうとしているのに、ずっと「いったい今月は何について書こう」と毎月締切が近くなるたびに考えてなんとかひねり出すということを繰り返している有様なのだから、時間が経過するからといって人は必ずしも成長するものではないようだ。
一方で本をめぐる環境がこの4年半でどれだけ変わったかということについては、意見がわかれるところだろう。たとえば最近発売されたばかりの小田光雄氏の『出版状況クロニクル』を読めば、この2年弱の間だけをとってみても、とても大きな変化が起こっていると言える。一方で業界の構造それ自体に思いを馳せてみれば、相変わらず本屋には、どこでも買えるものが大量に送られてきて、低い利益率にもかかわらずどこでも同じ値段で売らなければいけないし、出版社はとにかく新しいものを出し続けなければ倒産するというプレッシャーのもとで大量のタイトルを世に送り出し、それでもどんどん倒産の憂き目にあっているから、ほぼまったく変化なしという見方もできる。 でも少なくとも「本と出会う」ための手段は、ここ数年でだいぶ増え、定着してきたといえるだろう。mixiやtwitterなどのコミュニケーションツールや、RSSリーダーなど情報収集ツールの普及によって、自分の選んだ人のフィルタを通った本との出会いの質はどんどん洗練されてきている。Amazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」も、処理こそ機械的ではあるがその先にいるのは実際の読者だから、統計データが蓄積されシステムの精度が向上するに連れて、届くメールがたまにおそろしく的を得るようになってきている。また一方でリアルスペースにおいても、新しいタイプの書店や、書店ではないけれど本を扱う小売店、その他様々な本と人とが出会うための仕掛けがある場所がたくさん生まれている。この4年半の間に、ぼく自身もだいぶそういったものを手がけ、紹介させていただいてきた。 多くの人が気がついているように、新刊本が流通する量はおそらく減るだろう。新しいメディアが生まれれば、古いメディアのある部分が取って代わられるのは当然であり、そのことについてはこれまで何度も書いてきた。これも最近発売されたばかりの小林弘人氏の『新世紀メディア論』が指摘している通り、これまで「出版」と呼ばれていた「本を編集して書店で流通させること」が、イコール「出版」ではなくなろうとしている。だからこそ、そういう時代に本というメディアが担うべき役割と、本以外のメディアに受け渡すべき役割の両方について考えていなければいけない。本を制作したり流通させたり販売させたりする側がその変化にきちんと対応していかなければ、本来起こるはずのない自滅を引き起こすことになりかねないからだ。 本の担う役割が少しずつ変化しその流通量が減っていくとき、本を購入して読む人と直接つながっている書店という場所のもつ役割は、特に大きく変化することになるだろう。そしてそのとき、前述した「どこでも買えるものが大量に送られてきて、低い利益率にもかかわらずどこでも同じ値段で売らなければいけない」という構造にもまた、変化が訪れているはずだ。あるいは仮にそのシステムがそのままであったとしても、残っていく書店が、これまでほとんど追及しなくても済んでしまった「小売店としての魅力」をいち早く高めることができたところであろうことは、おそらくまず間違いないだろうと思う。 たとえばいまアパレルには大不況が訪れているが、それでも原宿の「H&M」「FOREVER21」界隈ではものすごい数の人が行列をなしているし、日本のいたるところで「ユニクロ」に多くのお金が落とされている。これを単に「安くてカッコいい服を売っているから」と片付けるようでは思考停止だ。そこをしつこく「なぜそれが『H&M』や『ユニクロ』にできて他にはできなかったのか」「なぜ書店には行列ができないのか」「なぜ1,900円のTシャツは安いと感じるのに1,900円の単行本は高いと感じるのか」などと考え、かつそこにヒントやアイデアを見つけたら「でもそんなこと書店にはできない」と簡単にあきらめずに、何かエッセンスだけでも「小売店としての書店の魅力」にできないかと考えつづけること。残っていくのはおそらくそういうところだろうし、そのときその書店はいわゆる旧来の書店であるとは限らない。いま洋服を売っているのがいわゆるテイラーでもブティックでもないように、歴史をたどれば、洋服はなくならなくとも洋服を売るというビジネスは変化する、というのは自明だ。 定価販売をしなければいけない以上、あるいは自由価格であれ利益率に大幅な変化が訪れない以上、書店が「小売店としての魅力」を追求するための、大きな方向性は2つしかない。1つ目は、同じ本でもその店で買いたくなるように演出すること。2つ目は、本以外の商品も平行して取り扱うことで、新たな利益構造をもった業態を目指すことだ。前者にも後者にも、まだまだ試されていないあらゆる可能性があり得るし、そのためのヒントは他の小売業の中にたくさん転がっている。ポイントは、それを検討し実行することに、いままでかけてこなかったコストをかける決断ができるかどうかなのではないかと思う。もちろんそれは、本をつくる側にも流通させる側にも、同様にいえることだ。またそれと同時に、本にまつわる全く別の新しい仕事も、まだまだ増えないとも限らない。この連載は終わるけれど、ぼく自身はむしろこれから、より積極的に活動していくつもりだ。 とりあえず過去の原稿はブログ形式でアーカイブしてあるので(※1)、これからまた何かどこかで書くことがあるとすれば、そこでまたお知らせします。長い間、ありがとうございました。またどこかでお会いしましょう。
by uchnm
| 2009-05-25 00:00
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「ぼくたちが本と出会うときのこと」は、ブックピックオーケストラ発起人、numabooks代表の内沼晋太郎が、「[本]のメルマガ」で書かせていただいている月一回の連載です。 →mixi 以前の記事
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